第7話 運命のじゃんけん

『では、じゃんけんだ♡』


ざわつく周りを、お決まりのその一言で静かにする。


緊張の面持ちで、俺以外の村民が右腕を出した。

タイミングを合わせてじゃんけんをする。


「...じゃーんけーん、ぽっい!」


固唾を飲み、村民が、各々の手を確認した。

小刻みに震えている者もいる。

こんなふざけた勝負で、生け贄になるかもしれない恐怖と戦っているんだ。さもありなん。


結果、チョキが多いが、パーもグーも居た。

俺は、大多数のチョキを出していた一人だった。


あいこである。

最初の勝負では、勝敗は決まらなかった。

周りは、ほっと息をついて、肩の力が少し抜けたようだ。


再び、じゃんけんの掛け声がかかる。


ならば今度は、ぐーを出してみよう。

チョキが多かったから、次はパーを出す人間が多そうだと思ったからだ。

人は、何も考えなければグーチョキパーの順で手札を出す傾向にあるからな。


「じゃーんけーん、ぽっい!」


思った通り俺以外のほとんどがパーだった。

一瞬、パーを出した者たちに緊張が走る。

それもそのはず、俺は予定通りぐーを出していた。俺が唯一負けて、生贄から逃れられたかと思ったのだろう。

だが、よく見るとチョキが独りだけいた。


結果また、あいこである。


ふぅ〜...と、パーを出した者たちは安堵した。

このチョキがいなければ、俺は一抜けをしていたからな。恐怖はひとしおだったのだろう。

なんだかなぁ…。俺が選ばれることが前提の勝負だからか、俺が抜けることに過敏に反応されてる気がする。


はぁ~っとため息交じりに神をチラリと見ると、ニヤニヤしたままだった。


こいつは、本当にいい性格をしている。

人の一生を決めるこの場で、面白がれる性格に正気を疑う。


きっと、神は俺が勝つことを知ってる。だからこそ、ずっとニヤニヤしてるんだ。

それまでのこのあいこの応酬は、ただの余興のつもりなんだろう。

勝負に一喜一憂する様を見て、楽しんでるに違いない。


次は、ぐーが多いか?

だが、きっと、グーチョキパーの順で出す法則に気づいた奴もいそうだ。

そうすると、つぎは逆にグーが少なくなるのか。

何にせよ、チョキとパーなら、パーを出せば負けれる。

なら、俺はパーを出そう。

次に出す一手をきめて、じゃんけんをする。


「じゃーんけーん、ぽっい!」


すると、俺と同じ考えのものが多かったようだ。

この場には、パーがたくさんいた。


そして、やはり、ぐーは少なかった...。


そして、偶然にもチョキが一人もいなかった。


つまりどういうことかと言うと、パーをだした俺は勝ってしまった...。生贄に一歩前進だ。


ぐーを出した集落は、わぁーっと歓喜し、抱き合う。

生贄から逃れられたのだ。当然のリアクションだ。おめでとう。


俺は、再びチラリと神様を見る。どんな気分だ、クソ神?

相変わらずニヤニヤしている。ケッと、やさぐれたい気分だ。予定通り俺が残ってよかったな。

そして、両親の方を見る。


なぜか、びっくりしていた。

なぜだ?さっきまで人様の子が選ばれると肩身が狭くなりそうで戦々恐々としてたんだから、俺が生贄に選ばれる方が嬉しいだろうに?


すると、ボソリと両親がつぶやいた声が俺の耳に届いた。


『息子が初めてじゃんけんで勝った...。あの子勝つことあるのね…。』


そのセリフで、勝った事実に気づいて、ポカンっと呆気にとられてしまった。

そうだ、俺は人生で初めてじゃんけんに勝ったのだ!

じゃんけんの場面になると、必ずクソ神があらわれ当然のように、俺は負け続けていた。

勝った商品が生贄なので、初めての勝利を喜んでいいのかわからないところが、複雑だな...。


そうか...。

俺はじゃんけんが壊滅的に弱いわけではなかったのか。

やっぱり、このクソ神が勝敗を操作しているのだ。


はぁ…、ならばもうこんな勝負茶番だ。

さっさと勝って生贄になってやろうじゃないかっ!


一層、神に強い視線を向けて睨んでやる。


覚悟は決まったぞ!クソ神っ!


すると、俺の視線に気づいた神は、ニヤニヤ笑いをやめた。





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