第6話 俺って....

ザワっとする。


この神の発言に、この場にいる者がみな焦り出したのだ。


それもそのはず、いつも負けるのが俺。

人生で一度もじゃんけんで勝ったことがないのが俺。

愛し子なのに、ハズレばかり引くのが俺。


村民はみな知ってる。

だから慌て出した。

特に次期リーダーの家族たちは、絶望で顔つきが悪い。


そんな....とか、じゃあ、うちの息子が選ばれることも....と、聞こえてきた。


ヒソヒソ話すわけでもなく、結構はっきりと聞こえる。

あからさますぎて、笑える。

さっきまで、生贄は俺しかありえないって雰囲気で楽観的だったのに、はっ、なんだこれ。

みんな正直だな。

俺が選ばれるのが当然って思ってたことを隠そうともしない。


俺の両親も戸惑ってる。

すでに覚悟を決めていたのに、ここにきて息子が選ばれないかもって事態に困惑している。

まぁ、顔つきを見ればそれは期待とかじゃないのは、丸わかりだ。

自分の息子が選ばれなかったとき、周りの村民からの非難が怖いのだろう...。

すでに、俺は両親からは息子としての情は失われていた。

俺の犠牲があり、村が繁栄するのが、当たり前だったからだ。

俺は、息子ではなく『人柱』。


だが、こうなってくると、このクソ神様は知っていたんじゃないか?

いずれ俺が生贄に選ばれることを。

村民や両親が、良心の呵責を覚えないように、意識を改革洗脳していたように思える。


俺は、なんだったんだろう。

俺の幸せってなんだった?

存在意義を自問自答するような思春期はなかった。俺は、生まれた時から愛し子だったから。

誰かの将来のために、俺は負ける運命だった。

一度も、俺が得したじゃんけんはない。


これじゃ、愛し子じゃなくて忌み子だ。


誰か、俺の人権を肯定してくれ。

俺は、人だ。便利な犠牲じゃない。

誰か、俺の幸福を祈ってくれ。

俺の死を望まないでくれ。


俺は、俺は、...寂しい。

諦めるばかりの人生で終わることが、悲しい。


心配しないでいいよ。

きっと、あんたらの息子は、選ばれない。

勝った負けたなんて、関係ない。

このクソ神様は、俺しか選ばない。

それが、俺の生まれ落ちた瞬間からの定めだから。







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