第5話 諦めるしかない

「誰を、生贄にする?」


やけにその言葉がはっきりと聞こえた。


心臓がバクバクする。

なぜなら周りの村民は、俺しか見ていない。

俺がいる場で、選択する状況になれば、必ずと言って神が現れ、そして....俺が負けるのがセオリーだ。

きっと、今回もそうだろうと誰もが思っていた。


清廉な空気がふわりと周りに流れた。

奴がくる。


嫌だ嫌だ、来るな。

俺が愛し子だというなら、今回は来るな。


だが、俺の心なんて関係ないと嘲笑うかのように、パッと、奴が宙に浮かんで現れてしまった。

そして、お決まりのセリフを言う。


『じゃあ、じゃんけんだ♡』


シンと静まり返った会議場に、楽しそうに、いつもの言葉が響いた。

ニヤニヤと俺を見ながら、宙に浮く男。

俺にとっての疫病神、クソ神様めっ!

期待に輝きはじめる村民の目とは逆に、俺は忌々しくクソ神を睨み続ける。


『生贄に、誰がなるか。じゃんけんで決めようじゃないか。

そして私が、その生贄を頂こう。』


腕を組み、ニヤニヤと面白がる神。

無駄に顔面がいい神に、ムカついて仕方ない。


周りの空気が、絶望感から期待でキラキラしたものにすでに変わっている。


どうせ、じゃんけんをするまでもない。

俺に決まってる...。


村長が、すっと立って、周りを見渡す。


「では、若い衆の中から一人出そう。

一番生命力に溢れている者のなかからひとり生贄として神様に献上することにする。」


時間もないので、各集落の次期リーダーたちの中から、じゃんけんで選ぼうと、村長は言った。

この村には、集落が10ある。

村長の声により、会議場の真ん中に10人の若者が円になって集まった。


しかし、当然これは出来レースになるだろう。

次期リーダーには、俺が含まれているからだ。


これでは、俺が負けるに違いない....。

もう諦めるしかない、俺は生贄になるのだろう。

このクソ神様に俺がどう使われるのかわからないが、俺一人の命で村が助かるならそれもいいかもな...。

と、俺が自嘲的な笑みを浮かべて、右手を前に出し構えた。


しかし、その時神が条件を付け加えた。


『じゃあ、じゃんけんね♡

ただし、者を生贄にもらう。』


もの...?

負けた者じゃなくて?



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