第4話 生贄?非人道的すぎないか。

そして現在、村には全滅の危機が襲ってきていた。

もう隣の村は、全滅している。今朝早く、早馬に乗って命からがら知らせに来た村民がやってきたから間違いない。

次は、うちの村だ。


何が起きたかというと、ダンジョンからのスタンピードだ。

人知れず、ダンジョンが生まれていたようで、発見された時には、すでにデッドラインになっていた。

ダンジョン内に魔物がひしめき合い、放出間近だった。

冒険者に依頼を出すのもままならない内に、スタンピードが起きた。

辺境の廃れた地域ゆえに、高ランカーの冒険者も近くにいなかった。

頼みの綱の中央からの騎士団も到着まで10日以上かかる。

ゆえにダンジョンから出た魔物は、数を減らさないままに猛スピードで前進あるのみ。

すでに飲み込まれた村や街は両の手じゃ足りない。


俺たちの村も通行の邪魔だというように魔物に壊されていく運命なのだ。


避難するにも、馬が足りない。歩いて避難するにも、もう遅い。

村民会議は、絶望した空気しかなかった。


そんなとき。


「戦おう!!」


と、いまいち理解できてないチビたちが勇猛果敢に会議の場に飛び込んできた。


大人はみな、首を振る。

無理だと諭すが、そんなのチビたちには通じない。

チビたちの目は、諦めてない。今にも、村の外に飛び出して行きそうだ。


こんな未来あるチビたちを死なすことになる現実に、吐きそうになる。

大人たちは、チビたちを見ながら泣きそうだ。


そして、チビたちの一人が大人には考えつかないようなことを言い出した。


「....じゃあ、誰かが生贄になればいいんじゃないか!

うちには、神様がいるじゃないか!!」


最近、そんな本を読んだのだ。

雨を降らすために、村一番の美女を生贄にし祭壇に捧げたが、なんやかんやあって近くを通りがかった勇者が美女を助けて、エロ神とも和解し雨も降りハッピーエンドっていう物語が、チビたちの間で流行っていた。

勇者役と美女役と神役と魔物役でチャンバラごっこをしているチビたちをよく見かけた。


だが、うちにいるのは好色の神ではない。

俺という愛し子を揶揄う、じゃんけんのクソ神様しかいないのだ。

今だって、こんな絶望的な状況で現れないんだ。

期待するだけ無駄じゃないか。


ただ、この場にいた人間たちは無駄だとは思わなかったらしい。

嫌な汗が、流れる。


ざわざわとし始める会議場。

チラチラと、こっちを見る村民。

まさか、まさか。


そして、誰かが声を発した。



「誰を、生贄にする?」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る