使命【KAC20241】

小余綾香

第1話

 我々には三分以内にやらなければならないことがあった。我らが使命は事と次第により幾つかの分岐はあるものの究極の目標は創造主より詳らかにされている。

 そして、事ここに至った以上、我々は潔く地獄の釜へでも何でも自ら飛び込み、一族の名誉を高めなければならない。その覚悟を決め、故郷を後にしたのだ。我々をここまで育てる為に脱落の汚名を着、或いは幼くして間引かれてしまった兄弟達の分の思いも我々は背負っている。

 私は自分に言い聞かせた。


 しかし、堅牢な金網の檻に捕らえられた儘、私と仲間達は遥か下、死角から立ち上る熱に今、身を震わせていた。ゴポ、ゴポポ。鈍い音は先刻よりその響きの迫力を増し続け、虜囚の恐れを煽る。仲間達が身を寄せ合うと、それを嘲笑うかに檻は傾きを変えた。急な傾斜に我々の結束は崩され、無防備な個が熱気に晒される。

 この檻に入れられるにあたり我らが一族の鎧は剥ぎ取られた。

 最早、破れそうな下着一枚しか襲い来る全てから身を守るものもない。辺りに立ち込めた熱と湿気はいたぶる様に皮を蒸して濡らし、それが更に高温となって体に絡みついた。疲労と弄ばれる感覚、効果的に恐怖を刺激する揺れに我々も弱り始めている。

 ここにいるのは選ばれしもの達。故郷における選抜の数々を潜り抜け、この地へと送り込まれた。その誇りは今もこの胸にある。この程度の拷問で挫けるものか。

 そう思っていたが、一族の鎧を引き剥がされたこの時は我々の紛れもなく弱点でもあった。同族達の祈りのこめられた鎧は身に帯びれば心強く、脱げば心許なさに襲われる。まだお歯黒も薄く、青さ残すもの達はその劇的な変動に耐え難い。そこにこのような仕打ちを受ければ弱って行くばかりだろう。

 私は心を決めた。しおどきだ。


「よいか!? 次の揺れで一気に攻める。魁は私が務める故、ついて来い!」


 我が名はそら豆。

 我々は三分でうまく、柔らかく、美しく茹で上がらねばならない。一族に栄光あれおいしくなーれ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

使命【KAC20241】 小余綾香 @koyurugi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ