人型戦闘機操縦士キサラギ
星来 香文子
20XX年
キサラギ少佐には三分以内にやらなければならないことがあった。
「くそっ! 今かよ!! よりによって、カップ麺にお湯を注いだ直後に現れなくても!!」
地球防衛軍第三小隊。
三ヶ月前、この地球に突如現れた地球外生命体・
昼食くらいしか楽しみがなく、期間限定のカップラーメンを食べることを唯一の趣味としていたキサラギ少佐は、休憩室でお湯を注いでしまったカップ麺の上に皿と割り箸を置いて、人型戦闘機ロボット・ドイテロの
お湯を入れて三分で出来上がり。
説明書に書かれている調理法にこだわるこの男は、なんとしてでも残り二分二十八秒以内に敵を倒さなければならない。
「なんで今日に限って……!!」
他の隊員たちは、十二時の昼休憩になってすぐに近くにある食堂に行ってしまった。
キサラギ少佐は、どうせまた今日もカップ麺だろうと誘われてもいない。
『イイイイイ……ママママカカカ……カヨヨヨヨ』
イマカヨは『イマカヨ』の四文字しか喋らない。
これに意味があるのかどうかは現在解析中だが、とにかく彼らが地球に住む者たちにとって脅威であることに変わりはない。
月基地ができてから今年で三十年。
同じ銀河系の星に生息していた生命体とは友好関係を結んでいるが、イマカヨはそのどこの生命体にも属していない未知の生命体だ。
彼らは、身長五メートル。
目のような緑に光る円から、光線を発射し、街を破壊する。
知能があるのか、なんの目的があってこんなことをするのか不明である。
まだまだわからないことが多すぎるが、とにかくキサラギ少佐は三分以内にこいつを一人で倒さなければならなかった。
「どりゃあああああああ!!」
管制室の指示なんて待っていられない。
さっさと倒して、麺が伸びる前に、最高の状態のうちに食べなければ……!!
『イママカカカカカヨヨヨ』
残り二分。
キサラギ少佐の動きに合わせて、ドイテロの腕が強烈なパンチをイマカヨの目らしき円に一発入る。
『イマカカ……ヨヨ』
イマカヨは後方に倒れ、爆炎とともに粉々に散った。
響く轟音。
被害状況もろくに確認せず、キサラギ少佐は急いで休憩室に戻った。
「残り、一分十秒!! 間に合えええええ!!」
ドイテロを元の位置に戻し、操縦席から降りると、必死に走る。
途中滑って転びそうになったが、なんとか持ちこたえて、ちょうど三分。
セットしていたタイマーが鳴り響いた。
「間に合ったぜ!」
すぐに蓋を開けて、麺をすする。
「戦闘後のラーメンは格別だなぁ……ん?」
ところが、またもや鳴り響く警報。
「おいおい、ちょっとまて……まだ一口しか食ってないぞ?」
どうか聞き間違いであって欲しいと、キサラギ少佐は願う。
もう一度麺をすする。
しかし、やはり警報が鳴り響いている。
「今かよ……くそっ!!」
再びドイテロの操縦席に乗り込み、今度は蹴り一発でイマカヨを退治してきたキサラギ少佐。
休憩中に二体のイマカヨを倒したなんてすごいと、戻ってきた他の隊員たちに褒められる。
「少佐、今度こそ昇級するんじゃないんすか?」
「そ、そうか?」
キサラギ少佐もまんざらではなさそうだったが、整備責任者・ハセガワが眉間に深いシワを寄せながらやってきた。
「キサラギ少佐、操縦席がにんにく臭いんですが……あなた、ここでラーメン食べましたよね? あと、スープが溢れて、タッチパネルが破損しましてます。どうしてくれるんですか?」
「す、すまん。その、だって、あいつら、今かよってタイミングで出現するから————」
操縦席に指定外食品であるカップ麺の持ち込みは禁止されている。
結局、キサラギ少佐は、今日も昇級のチャンスを逃した。
「だからって、ラーメンすすりながら戦うなんて!! 何を考えてるんですか!! 今すぐ書いてください」
「な、なにを……?」
「報告書と反省文です!」
「え、今から……?」
「早く!! 三分以内!!」
キサラギ少佐には三分以内にやらなければならないことが増えた。
《おわり》
人型戦闘機操縦士キサラギ 星来 香文子 @eru_melon
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