4年に一度の誕生日

@S716

第1話

 辺りを雪が染めていた。

 暦上はまだ冬ではあるが、季節ではそろそろ春を迎える。

 徐々に暖かくなり始めてはいるものの、薄着で外には出られない。僕は、少し厚手のコートを身にまとい首をすぼめ、黙々と歩いていた。


 ケーキ屋さんで予約していたケーキを受け取る。レストランが併設されている店では、こんなに寒いのに人で賑わっている。

 レジでお会計を待っていると、"Happy birthday"の歌が流れてきてほんの一瞬ドキリとしたが、すぐに我に返り、お釣りとケーキを受け取って店を出た。


 今日は僕自身の誕生日でもあった。ケーキはその為のケーキでもある。

 しかし、お祝いしてくれる人は誰もいない。


 閏年に生まれた僕は、世界的にも希少な、4年に一度の誕生日にしか歳を取らない体質だった。


 だから、何人もの友人や親友を、愛した人を、子供を看取ってきた。

 ただ人より歳をとるのが遅いだけ、それだけでいじめられたりした。

 だから親を恨んだこともあった。

 しかし、そのどの記憶も、最早はるか昔。いつしか、誰かと関わることすらやめた。

 だから、僕を祝ってくれる人なんていない。


 築何十年のボロアパートの階段をのそのそと昇っていくと、扉の前に座り込む人がいた。


 「おかえりなさい」

 以前働いていた時の同僚だった。なぜかしつこく絡んできた謎の女子校生。強くあしらえないけど、適当に相手していれば次第に離れていくと思っていたけれど、それでもなぜか付きまとってくる。

 「今日誕生日ですよね」

 カギを開けて家に入ると、確認もなしにずかずかと入ってくる。


 「寒いですね」

 そういえばこの子、名前なんだっけ。

 「これケーキですか」

 殺風景な部屋にぽつんと置かれたテーブルに置いた箱を、ためらうことなく開けていく。

 「かわいいですね」

 おめでとう、とパチパチと手をたたいている。

 と、徐に大事に抱えていたリュックからパソコンを取り出す。

 ケーキの”せい”で狭いテーブルにそれを置いて開いた。


 「みんなもお祝いしてくれてますから」

 一人じゃないですよ、と画面には見覚えのある人たちの姿があった。

 遠くにいる人たちもオンラインでお祝いしてくれていた。

 「あんまりみんなで来ると悪いと思ったので」

 僕の目には何かが、こみ上げた。いつの間にか忘れていた感情を思い出した。


 「生まれてきてくれてありがとうございます」

 彼女の言葉が、なんてことない言葉が、僕の胸を満たしていた。

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