第32話 形勢逆転

「こいつらはもう処分してもいいんだよな」

 魔族の一人が鎖にぐるぐる巻きにされた妖精族たちを指差して言った。

「もちろんだゴレイ。そこに居るのは青い羽の妖精族たちだ。粉を作るために羽が必要だったから生かしていたが、羽はひきちぎりすぎて無くなってしまった。オークションに出せば売れると思ったものの、あの白い羽に話題をかっさられてしまって出番なし。つまり、もう不用品だと言うことだよ」

 別の魔族がゴレイに答えた。

「クックック…こいつら今頃になって怯えているぜ。やっと自分たちが何をしても助からないと分かったか⁉︎ 上級魔族じゃともかく、将軍ドクタールが支配してる国なんだぜ。捕まったらそこで命は尽きたも当然だろうがよ!」

 ゴレイはそう言って妖精族たちに向けて、魔術を練った。

 闇属性の魔術だ。ゴレイとさっき喋っていた魔族の二人とも中級魔族と言ったところだろう。

 魔族のライダーは、怯えている妖精族を助けるため、戦闘してここにいる魔王軍の魔族たちを倒そうという答えに至った。

 ゴレイが妖精族たちに向かって魔術を放とうとする瞬間。

闇斬チマー

 魔族のライダーは、魔術で生成した闇の剣でゴレイの身体を真っ二つに切った。

「!!!」

 ゴレイの側にいた魔族は、何が起こったのか分からない様子で立ちすくんでいる。

「裏切りだ! 魔族が一人裏切ったぞ!」

「この格好だとちょうどいいな」

 相手は低級魔族10名と中級魔族2名。変装しながらでも十分勝てる相手だ。

 魔族のライダーは闇の剣を構えて、踏み込んだ。

 一人、また一人と魔族たちが倒れて行く。

 ライダーの剣はとてつもなく早く、中級魔族でも、追うことがやっとだった。

「ぐわぁぁ!」

 舞台裏にいる最後の魔族を倒した。そして妖精族についていた鎖を一つ一つ闇の剣で切っていく。

「あ、ありがとうございます!」

 解放された妖精族たちはライダーを見て礼をした。ライダーはこの時すでに魔族ではなく、素の姿に戻っていた。

「君たちはどこかに隠れておくといいよ」

 ライダーはそう言って、今度は悪徳貴族の姿に変装した。


 オークションを後にする司会者。その前に悪徳貴族に変装したライダーが立ち塞がる。

「なんだね君は。オークションのクレームかな?」

「まぁそんなところだ。お前、舞台裏に妖精族が捕らえていたことを知っていたな」

「なッ…なんのことかな?」

「とぼけるな。白い羽の妖精族がダメになった場合、代わりに彼らを売りつけるつもりだった。人間の癖に魔王軍と協力するとは呆れたやつだ」

「…! バレたか。しかし、無駄だ。狼煙ロウエン

 司会者の男は、魔術を発動させた。あたりが灰色の煙で包まれる。ライダーはその煙に包まれながら、魔術の範囲を感知していた。

 狼煙ロウエンは五感の内、視界を遮る術のようだ。しかし、魔術による探知サーチは通る。煙は空高く登っている。

「なるほど、連絡用の煙としての役割もあるのか」

「ご名答。しかし、もう遅い」

 司会者の男はライダーの背後を取った。煙の中から刀を振り上げる。鋭い切先がライダーを襲う。

 だが、刀は空振りした。ライダーは予想を遥かに超えるスピードで、司会者の男の背後に回り込んだ。

闇斬チマー

 闇の剣が、司会者の男を両断した。その直後から煙が晴れ始めた。

 司会者の男は生き絶えた。ここから先はブレイドたちと合流して、一旦エピカリス王国を出て、王都より援軍を要請する。そういう算段だった。

 だけど、どうやら上手く行きそうにないな。

 ライダーはエピカリス宮殿の方角を見た。高魔力の存在が一つ。猛スピードでこちらに向かってきている。

 ライダーはさらに一手を打つことにした。

「契約・解」

 その瞬間、エピカリス宮殿から爆発音が聞こえ、やがて煙がもくもくと上がり始めた。


【エピカリス宮殿地下・牢獄】

 前触れもなく、突然牢獄の鉄格子の部分に闇魔術の詠唱で読まれる文字が浮かび上がり、それは輝きを放った。牢獄の見張りを担当していた魔族たちは慌てて、そこに近づき、文字を消そうと魔術を発動する。

 しかし、それよりも早く、文字の輝きは強烈な光を伴って爆発した。

 ドオオオオオン!

 大きな音を伴って、牢獄の鉄格子は、手前に吹っ飛んだ。巻き込まれる見張りの魔族たち。交代でやってきた魔族が何が起こったのか分からない様子で立ちすくんだ。

 一方の解放された妖精族たちは、全てを理解していた。3日前、魔族のライダーからの紙に書かれていた作戦を各檻の中で共有していたのだ。

 牢獄から無事に出ることができた妖精族たちは抱き合って喜んだ。爆発によって鉄の格子だけでなく、妖精族を拘束していた鎖すらもなくなっていた。

「ほほほ…みんな良かったのう…」

 妖精族の長老であるガレン・ストームが再開した妖精族の家族や友達等の姿を見ながら髭をさすった。

「それにしても…ワシは一体何年を牢獄の中で過ごしたのじゃ?」

「ガレンさま! 4年です! 大切なことなんですから忘れちゃダメです!」

「おお! そうじゃった、そうじゃった。ワシは牢獄に入ったあの日から、一日たちとも諦めたことはないよ。みんなが隣にいたからのう」

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勇者のスパイ 浮世ばなれ @ukiyobamare

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