第16話バナナ結合


「どこだ、ここ……」


 先程まで草木が無くなったマラリア島にいたはずが、何も無い真っ暗な空間へ来ていた。

 更には激しい頭痛も治り、体調も良くなっていた。


『お前、俺の力が欲しいのか』

「……誰だっ!? 」


 姿は見えないが、暗闇の空間に厳つい声が響いてきた。


『誰だって、お前が俺を呼び出したんだろ』

「いや、本当にアンタが誰か分からなくて」

『……』

「……おーい。どうした」

「……後ろだ」

「えっ……。のわっ!?」


 俺の背後にいつの間にか厳つい声を持つ本人が現れた。


「俺の名前はオルガル・デナス。魔王の従者との戦に敗れ、この様な姿になってしまった」


 何故か上半身は裸でガタイがよく、全身が筋肉で出来ている。

 見た目だけでもどんな武器でも通用しなさそうなことが分かる。

 しかし、オルガルの身体は透けていた。


「どうやったら負けるんだよ、そんな強そうな身体で……」

「魔法だ。どれだけ鍛えた自慢の筋肉でもアレには敵わなかった」

「そうか……」

「……で、皮肉なことに死因である魔法のお陰で俺はこの空間限定で生かされているって訳か。ちなみに、俺は何をすればいいんだ? 俺がここにいるということは力が必要なのは分かるが……」


 オルガルは腕を組み、首を傾げる。


「なんか、『憑依魔法』とか言ってたけど……。でもするのか……」

「合体ッ!?」

「うっ! だっ、多分そういうことだろ」


『合体』という言葉に惹かれたのか触れることの出来ない肉体でオルガルは俺の肩を掴む仕草をする。

 だが、やっぱり掴めておらずオルガルの両手の指が俺の肩を貫通している。

 実態化していたら、俺の肩は破壊されていたかもしれない。


「しかし、どうやったらそんな事を」

「……。実は、俺の国に合体する為の伝統的なポーズがあるんだが、それでいけるか?」

「そうか、やってみよう」


 俺は例の国民的――いや、世界的に人気なあのポーズのやり方をオルガルに教えた。


「よし、行くぞ」

「ああ、いつでも来いっ!!」


 俺とオルガルは直列に並び、少し距離をとる。

 俺は両腕を右にズラす。

 オルガルは両腕を左にズラした。


「ヒ〇ー」「ヒ〇ー」


 お互いに距離を詰めながら腕を反対方向に上半回転させる。


「ジ〇ン」「ジ〇ン」


 そして、また両腕を最初のように戻し、今度は片足を上げる。


「ハァッ!」「ハァッ!」


 俺とオルガルは足を開き、両手の人差し指の先を合わせた。


「……」

「……」


 だが、何もおこらなかった。


「……今思ったら、背丈は違うしオルガルの指には触れられないしでそもそも条件が合わないな。悪い、無駄な時間を……って何やってんだ」


 オルガルは何故か俺の身体に重なって仁王立ちしていた。


「……実はさっきから、お前に触れる度に俺の魂が揺らぐんだ。もしかすると、コレで『憑依』ってやつができるんじゃないか」


 俺は目を閉じ、実態の無い未知の『魂』というものを感じる為に集中する。


「……確かに。なんだか分からないけど、多分いけそう」

「いやっ、『多分』では無い。確実だ。お前の魂の形が分かる。コレは……お前、異世界人だな?」

「なっ……! まさか魂の形でもバレるのか……」

「まぁ、安心しろ。魂の形なんざ俺たちみたいな幽霊しか分かりゃしねぇよ。けど、お前の魂、

「変ってなんだ?」

「……いや、なんでも無い。それより、成功したんじゃねえか」


 すると、真っ暗な空間の奥から一筋の光が差し込んでいることに気付いた。


「もしかして、あそこに行けば……」


 俺とオルガルは重なりながら光がある場所へ目指して走り出した。

 そして、光が目の前まで近づいてくると俺はまた意識を失った。



 〇 〇 〇 〇 〇



「んうぅ……。あれ、どうなった……」


 意識が朦朧とし視界がぼやけている。


『右に避けろ』


 その言葉に自然と身体が動いた。

 すると、視界も鮮明になり意識もハッキリしていた。


「クソッ……!」


 目の前に例の木製ナイフを持った男がいた。


『どうやら成功したみたいだな』

「ッ! もしかしてこの声、オルガルな……」

『ああ、そうだ。とりあえず、今はこの殺気の凄いヤツを何とかするしかないな』

「そうだな。あと、俺が喋ってる途中で喋ろうとするのやめてく……」

『いや、お前の考えが直接伝わってくるからどうしても……』

「さっきから何をごちゃごちゃと独り言を言ってんだヨォッ!」


 俺たちのくだらない言い争いが独り言に見えたのか、いかりながらコチラへ突撃してきた。


「フンッ!!!」

「グッ、ハァッアァッ……!?」

「マジか……。すげぇ、吹き飛んだ……」


 俺がバナナを当てた時は五百メートル程しか飛ばなかったが、恐らく今のはその倍は飛んでいっただろう。

 その隙に俺はソリディの元へ駆け寄っていった。


「ソリディ、大丈夫か」

「はぁはぁ、ええ、大丈夫よ。少し怠い感じがするけど動けるわ。……それにしても、初めて憑依魔法を使ったのだけれど、あんまり姿は変わらないのね」

「そうなのか?」


 すると、ソリディは杖で縦に長方形を描くように動かした。


「ほら、見てみなさい」


 長方形に描かれた場所に等身大の鏡張りが現れた。

 鏡にはいつもと同じ姿をした俺がたっていた。


「そうだな、いつも……」

『俺の……。オレの自慢の筋肉ガアアァァッアァッ!!!?』

「アアァッ……!?」


 突然、頭に男の咆哮が響き渡り、俺の頭にとてつもない痛みを感じた。


「オイッ! あんまり叫ぶなっ」

「ならば、俺の身体をカエセェッ!」

「……じゃあ、この体が嫌ならさっきアンタが吹き飛ばしたあの男を倒すぞ」

「そうだな。アイツを倒せば元に戻るんだな……。ならば、全力で行くぞっ!」


 体は主導権は基本的には俺にある。

 体は軽く、脚力や腕力などの能力が軒並み向上しているのが感じられる。

 男を吹き飛ばした方向に体を向けると、何事もなかったかのように立ち上がっていた。

 俺は右手にあるバナナを強く握りしめ、右脚を後ろに引いて戦闘体勢をとる。

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