第15話偽バナナ、エンセーテ

「なっ!? どういうことだ……」


 男は何かに驚いている様子を見せた。


「よし、今のうちだぁっ!」


 その隙に俺たちは一気に間合いを詰めようとした。


「チッ、だったら……」


 しかし男は、黒い球体を消し去ると、肩から腰までぶら下げている小さなバックから何かを取り出す。

 男は顔を綻ばせて、不気味に笑っていた。


「ヒヒ……。くらえっ!!」


 すると、取り出した物をかなりのスピードでこちらに飛ばしてきた。


「っ!? 避けてっ」

「……ッイ!」


 真正面から飛んでくる何かに対してソリディの掛け声に合わせ二手に分かれ横に避けた。おかげで命中は免れたが、距離を詰めたことで避けきれず俺の頬をかすっていった。


「ッ、大丈夫っ!? 今、回復する。……あ、あれ。魔法が効かない」


 ソリディは杖を俺の頬に当てて回復しようとした。

 しかし、杖の先端が淡い緑色に光っているにも関わらず中々傷が治らない。


「……アンタッ、何やったの!」

「ああ、その傷? もう死んでるけど、この村に住んでたオッサンの『負傷魔法』がかかった木製ナイフだよ」


 後ろを向くと、遠くの方に一本の木製ナイフが落ちていた。


「死んでいるのに魔法の効果が……。いえ、違うわ。アンタが今はその魔法を使えるのね」

「せいかーいっ」


 男はズボンの裾に隠れていた右と左のすねを露わにする。

 そして、当然の様に刺繍の痕が付いていた。


「これ、オッサンの脛なんだよ。だけど、意味はなかった。移植したところでコイツの魔法を使える訳では無い。そもそも、適合した泰迅ってやつの『』でこんなことしなくてもよかったんだ。なのに、魂がどうこうの話を信じて……。本当に狂ってたよ」


 男はズボンの裾を下ろした。


「つまり、アンタを倒さないとカズトの傷は治らないってことね」

「そうなるなっ!」

「――だったら攻撃するのみ、ダアァッ!」

「ガッ……!」

「よし、良くやったわ」


 男が話をしている間に、『透明化する魔法』をソリディにこっそりかけてもらい、背後に回って脳天にバナナを振り落とした。

 男は顔面から地面に倒れ、衝撃で地面にクレーターが出来上がった。


「うおっ! なんだ、この威力……」


 ソリディは男の傍に駆け寄って来た。


「凄いわね……。死んではいないけど、流石に気絶はしているようね」


 男は白目を剥き、ピクリとも動かなかった。


「どうする、コレ」

「どうするも何も、殺るしかないわよ」

「……本当に殺らなきゃいけないのか」

「はぁ、そうしなきゃアンタのその傷も治らないわよ」

「……分かった」


 異世界に来たからにはこういったことがあるとは思っていたが、いざやるとなると相手が誰であれあまり気分がいいものでは無い。

 それに、何故かさっきから頭が痛い。

 傷からずっと血が流れているからだろうか。


 俺は躊躇いながらもバナナをゆっくり振り上げ、男の脳天に振りおろそうとしたその時。


「ハイッ、残念」

「なッ……!??」


 気絶していたはずの男は目を覚まし、一瞬にして仰向けになり寝たまま俺に左手を向けた。


「吹きトベェっ!!!!」

「――ガアァッ……」

「カズトッ!!」


 男の声と共に俺は遠くへ吹き飛ばされ、強く地面に背中を打ちつけられた。

 起き上がると、ギリギリ二人の人影が見えるぐらいまで吹き飛ばされ、聞こえてくる声も小さかった。

 二人の元へ駆け寄ろうとするも足が動かなかった。


『よいしょっ、と』


 横になっていた人影は何も無かったかのように、立ち上がった。


『アンタ、さっきからおかしくない? 相当なダメージを負っているはずなのに、今じゃ普通に立ってるじゃない』

『うーん……。言っちゃおっかな。実は俺、を付けてんだよ』

『……なんでアンタみたいなのがそんな大層なものをつけているのよ』

『いや、たまたま襲ったヤツが持っててさ』


 そう言うと、口元を指でさしているように見えた。


『【息災延命ソクサイエンメイ】って言って、相手の命を喰うことで寿命を伸ばすことが出来て更に寿命を消費することで傷もで治す代物だ』

『アンタ、厄介ね』

『自分で言うのもあれだが、俺もそう思う』


 二人の話が聞こえてくる中、先程よりも頭痛が酷くなってきた。

 痛みを和らげようと頭を片手で抱える。


「クッ……」

『まぁ、なんで自分が厄介かと思うとさ。この島に漂ってる匂い何だけど、実は毒何だよね』

『……やっぱり毒だったのね、この匂い。いくら匂いがキツイとはいえ、ルーチェ達があんなに苦しむとは思えなかったわ』

『ふーん。でも、あそこで苦しんでいるカズト君は連れてきたんだ』

『そう、アイツは私のミスで連れてきちゃったの』

「……」


エアレズにソリディを守るように任されていたが、実際には俺がソリディに守られていたのかもしれない。


『でも、アンタみたいな化け物がいるんならアイツを――カズトがついてきてくれてよかったと思うわ』

『へぇー。でも、お前たち二人じゃ俺を倒すことは出来ない。このアーティファクトとこの顔のヤツの魔法がある限りなっ!』


男は俺のところまで聞こえるぐらいに大きく笑った。

それも、泰迅に似た笑い声だった。


『……ねぇ。アンタって魔法を同時に使うことは出来るの?』

『同時に……』

『多分、無理よね。アンタは複写魔法を必ず発動してからほかの魔法を一つだけ使えるのよね。さっきも黒い球体を消してから魔法のかかったナイフを投げたのはそういうことでしょ』

『……そうだが、それがどうした』


男は不機嫌そうに声が急に低くなった。


『私は出来るのよ』


ソリディらしき人影は杖を両手で持って前に突き出した。


『普通は私の魔力量と質から考えて出来ないことだけど、今なら全ての魔法を一つの魔法として使えるわ』


そう言うと、ソリディの持つ杖の先端に紅や黄などの色が集まり始め、真っ黒な球体が杖の先端に浮かんでいた。


『何だ、それは……』

『しかも、ただ集め合わせた魔法じゃないわ。全く別の魔法として生まれ変わるのよ』


そして、こちらを見ずに片手で杖を持って黒い球体を俺に向けた。


『カズトッ。アンタ、異世界人なんでしょ。魔法は使えないらしいけど、今はアンタに賭けるしかないわ。……今からアンタの魂に『憑依魔法』をぶつけるわ』

『!?……な、何だその魔法。そんな魔法聞いたことが……』

『当たり前でしょ。この魔法は複数の魔法を扱える私しか使えないのよ。しかも、今まで使えなかったんだから世界に知られるはずがないのよ』


ソリディは杖を持つ片手を震わせながらそう言った。


『……そろそろ時間が無いわ。カズトッ、憑依魔法はアンタの魂に一定時間別の人格が宿るわ。それと同時に身体能力もその人格とアンタのが合わさった強さになるわ。違和感や負荷を感じるかもしれないけど、今はこれしかないの。……お願い!』

「……」


頭痛がする中、ソリディの言葉が頭の中に響き反射的に頭を縦に振った。


『……行くわよっ――』


杖の先端から放たれた黒い球体は音速のスピードで俺の身体を貫通した。

その一瞬の出来事の後、俺の視界に真っ暗な空間が映し出された。

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