第二十話 源(新田)平(北条)合戦再び

五月十五日 ~分部河原~

北条泰家

「かかれー!」

得宗家当主である北条高時の弟、北条泰家の指示により、敵の新田軍に、矢の雨が降りかかる。新田軍はこれによって、大打撃を受けた。


新田義貞

「ちっ、幕府方は遂に本腰を入れてきやがったか。」

だが、これで引き下がるような新田義貞ではない。


新田義貞

「おい、お前ら、こんなんでへばったりしないよな!」

そう言って、義貞は選りすぐりの精鋭を引き連れて、その自慢の武勇で堂々と敵陣に突っ込んでいき風穴を開けていく。そして、背後をとってまた撹乱し、ということを繰り返し、敵を錯乱していく。そんな頼りがいのある大将に皆ついていくのだった。



窮地を力攻めで乗り切ろうとする敵方を、北条方は苦々しく見ていた。


北条泰家

「義貞...力攻めにでたか。しかし新田軍の軍勢がこれほど膨れ上がるとは思うておらんかった。せめて執権殿(赤橋守時)が、外甥(千寿王)を逃がさなければな…。」

新田軍は挙兵後、北条軍を小手指原、久米川にて破った。その後、高氏の嫡子である千寿王が新田軍に総大将として合流すると、瞬く間に軍勢は膨れ上がった。赤橋守時は、千寿王と登子が鎌倉から失踪した責任を取り、蟄居をしていた。


金沢貞冬

「まぁまぁ。起こってしまったものは仕方がないでしょう。執権殿だって、お辛い立場なのでしょうし、逃がしたと決めつけて悪く言うのは…。」

そう言って泰家をなだめるのは金沢貞冬だが、彼の異母兄である金沢貞将もまた、背後から新田軍を攻める大将として、下総国へ向かっていたが、鶴見にて小山氏と千葉氏に裏切られ、退却をしていた。


北条泰家

「…。何だ、かばうのか。まぁ、いい。こちらもこれだけの人数を集めてきたのだからな。規模が大幅に膨らんだ新田軍でも、ひとたまりもなかろう。」

事実、それだけの軍勢を引き連れて、泰家は幕府軍に援軍に向かっていた。

そしてそれ故に、油断ができていたのかもしれない。


脇屋義助

「兄上。一旦退却しよう。」

新田義貞

「…。わかった。お前ら退却だ!」

兵の疲弊が深かった新田軍は、そうしてその日は退いて行った。

そして、何故かそれを北条方は追い打ちをかけなかったのである。もし追い打ちをかけてたら、その後の戦局も変わっていたかもしれない。


金沢貞冬

「退却していった。追いかけましょう。四郎様(北条泰家)。」

北条泰家

「いや、もうよかろう。行くな。」

金沢貞冬

「え?ちょ、何をおっしゃるのですか。」

もしこの時に追撃していれば、歴史は違っていたかもしれない。でも、幕府軍はそれをしなかった。

そして、次の日 (五月一六日)には、北条氏の味方であると思っていた大多和氏の軍が裏切り、油断していた北条軍は更に大敗をして、大将の北条泰家は鎌倉へ逃げかえった。

こうして新田軍はそのまま勝ち進み、ついに鎌倉まで到達した。


五月一八日

赤橋守時は、三方に分かれた新田軍の一つを、鎌倉七口の一つである巨福呂坂で迎えうっていた。守時は、早朝から巨福路方を攻める新田方の大将である堀口貞満と死闘を繰り広げていた。『太平記』では、六五回も切り合いをしたといわれている。しかし奮戦むなしく、次第に騎兵は残りわずかとなってしまっていた。


赤橋守時

「私は、ここで潔く自害しようと思う。そしてかけられた嫌疑をはらしたい。」

そうして、守時は嫡男の方を見る。まだ若いその青年は、父の方見てうなずき、自分も同じ覚悟であることを示した。


守時の腹心

「殿、若様…」


赤橋守時

 (妻子達、登子よ。済まぬ。私は結局、妹の縁を頼って、己の北条の血筋から逃れて生き延びれるほど強くはない。弱い私を許しておくれ…。)


執権、赤橋守時は見事に十文字に腹を切り、自害した。

その後、守時の嫡男わずかに残った部下達も後を追って果てた。


堀口貞満

「執権守時。敵ながらあっぱれだったが、ついに兵力ついたか…。お前たちよいな。あれらに手出しを無用ぞ。」

新田方の大将である貞満はそういって、敵である守時達が自死をするのに手出しをしないよう、部下に命じることで、尊敬の意を示すのだった。


そして———

守時の死は、守時の妹である登子もいる所に、朗報として届けられるのであった。

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