第十五話 足利の決断
一三三三(元弘三年/正慶三年) 春
赤橋守時
「…お願いいたす。もう一度、六波羅に一度援軍に行ってもらいたい。」
御醍醐の先帝が隠岐を脱出して挙兵をした後、西国での反乱は更に激しさを増した。
足利高氏
「そうは言いましても…」
赤橋守時
「…もう、お力を借りねば、どうにもできぬ状態なのです。」
足利高氏
「…わかりました。北条と足利は刎頸の交わり。まずは、弟達とも、話してみましょう。」
足利高氏
「…と、いうわけだ。どう思う。」
上杉憲房
「畿内の状況は、実際厳しいでしょう。反北条を掲げる勢力は、以前よりも増しております。このままでは、先の当主(足利貞氏)がおっしゃった通り、足利が北条と共倒れの危険性もあり得るかと。」
足利高氏
「…そうか。なぁ、最近、思うんだ。私が足利の当主としてとるべき行動は、個人的な北条への思いを捨てて縁を切り、御醍醐の帝につくことなのではないかって。」
その時、みんなが大きく目を見開いて高氏を見た。
高師直
「やっと…やっと決心なさいましたか、殿。」
足利高氏
「えっ、あ、嫌、まだでも決心とまでは…。それに、鎌倉に残す千寿王や登子、伊豆の竹若丸はどうする。離反が露呈すれば、殺されてしまう。」
足利高国
「兄上。幕府の状態は、もうすでに、北条の者達を中心とした、内側の改革ではどうにもならぬ状況にまで陥っているのです。誰かが外部から崩すしか、世を変える道はない。足利はそれができる力を持っている。なればこそ、覚悟を決めて、足利宗家の当主としてなすべきことをなさいませ。それに、千寿王様はまだ幼少。隠して逃がすことは難しくないでしょう。義姉上は執権である兄君が、万一のときにも守ってくれるはずだ。竹若君は…事前に母方の叔父である覚遍殿に頼みましょう。」
足利高氏
「そうだな…高国のいう通りだ。うむ。決めたぞ。我らはこれより、御醍醐の帝をお助けする!」
かくして、遂に足利は北条を離反することが決まったわけだが、しかし、問題は山積みであった。そもそも足利当主である高氏の正妻が、他でもない北条一門の名門出身で、その兄達(赤橋守時、赤橋英時)も幕府にて重要な役職についているのである。
閨にて――
足利高氏
「え、隠し事?」
赤橋登子
「はい。北条から嫁いできた私に、何か知られたくないことがあるのでは?」
足利高氏
「なぜ、そう思う?」
彼は、こちらの心を見透かすかのように、悪戯っぽく笑ってそのように尋ねた。
赤橋登子
「最近、執事殿(高師重)や義弟殿は、私にだけよそよそしいのです。お二方は、上杉殿を通じて京の都の情報も探っているようで…此度の戦、もしや殿は、脱出なされた先の帝(後醍醐天皇)と共に…。」
足利高氏
「登子。そなたは何も気にせずともよい。」
赤橋登子
「ですが…。あっ。」
足利高氏
「案ずるな。そなたは私の何者にも代えがたい大切な妻だ。何があっても一生そなたを見捨てはしない。千寿王のこと、よろしく頼んだぞ。よいな。」
そう言って、高氏は登子を優しく抱き寄せる。
赤橋登子
「…承知しました。ご武運をお祈りしております。」
愛する夫の腕の中、登子はただ、そう答えるしかなかった。
赤橋登子
(いかかいたしましょう。兄上に報告するべきかしら…。でも…)
守時は高氏に無理を言って、六波羅に援軍に向かうよう懇願していた。それは恐らく、今の北条は、それほど窮地に陥っているということでもある。
赤橋登子
(その状況で「足利の離反の可能性あり」と私が密告した所で、北条家の敗北を確実に防ぐことができるとは限らない。いやしかしそれは、私が殿を、高氏様を裏切る勇気がないことの言い訳ではなくて?)
その夜ぐるぐると考えてている内に、次の日、高氏は京へと、六波羅探題の援軍に行ってしまった。
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