第一三話 元弘の乱②
一三三一年(元暦三年/元弘元年)
六波羅探題の普恩寺仲時は、頭を抱えていた。悪党の問題は解決した。いや、完全にというわけではないが、ひとまずは治まった。では、なぜ悩んでいるのか。それは佐々木道誉のことであった。あの坊主、何を考えているのか。
数時間前ー
仲時は、援軍として京に来ていた、親友の金沢貞冬と談笑していたところであった。
佐々木道誉
「ひとまず動乱が治めることが適ってようございましたなぁ。」
普恩寺仲時
「ええ、ひとまず首の皮一枚つながったという状況です。これも足利殿を始めとする鎌倉からの援軍のおかげでしょう。」
金沢貞冬
「そうそう、俺や足利殿を始めとする援軍をもってしても、苦労したからなぁ。」
普恩寺仲時
「ははは…。ところで、どのようなご用件でしょうか?判官殿。」
佐々木道誉
「いや、大したことではないのだが、お二方は、足利殿と親しいとお聞きしましてな?」
普恩寺仲時
「…まあ、幼い頃から交流はありましたが。それが?」
佐々木道誉
「お気をつけたほうがよい…。例えあなた方が、個人として足利殿と親しくしておられたとしても。あなたは北条の一分家の当主で平氏(諸説あり)。一方、足利殿は足利の当主で源氏。何もかも違いすぎるのですから。」
北条氏は、かつて源平合戦で敗れた平清盛の一族と同じ、桓武平氏の流れをくむと言われている。
金沢貞冬
「…それは、家格の違いがどうのこうの、という話ですか?」
佐々木道誉
「さあ、どうでしょう?では、私はこれで。」
そういって、道誉は去っていった。
シュッー ドッ
矢文の放たれた先を見てみると、全て見事に的の真ん中にあたっている。
足利高氏
「おみごとっ。」
少年は父の客人がきたことに気付いたようで、
松寿丸
「あっ、お久しゅうございます。仲時が息子、松寿丸です。」
松寿丸はそういって礼をし、高氏達を出迎えた。
足利高国
「いやー、相変わらずの腕前だ。」
松寿丸
「いっ、いや、そんなたいしたものではございません。」
普恩寺仲時
「松寿丸、父は足利殿らと話があるゆえ、邪魔にならぬようにな。梅とおとなしくまっておれ。」
松寿丸
「承知いたしました。」
足利高氏
「それで、話とは。」
普恩寺仲時
「戦が終わったばかりで申し訳ないが、聞きたいことがあってな。足利棟梁としての、そなたの考えを率直に述べてほしい。」
足利高氏
「…なんでございましょう。探題殿。私に答えられることであれば、なんなりと。」
今の仲時は、幼馴染として接してきているわけではない。探題として、足利家棟梁である自分に、意見を求めている。なれば、それはどれほど重い問いなのか。
普恩寺仲時
「そなたらは、今の世を、いや、ひいては北条氏をどう思うておる。足利氏は、不満を抱いてはおらぬか。」
足利高氏
「それは…」
高国
「正直、不満は多くあると思いますよ。世にも、北条にも。」
足利高氏
「高国っ。」
普恩寺仲時
「よい。率直にいってほしい。」
足利高国
「私個人は、北条氏のことを、悪しくは思うてはおりません。こうしてあなたとも親しいわけですし。みな善い人達であるのは、理解しています。しかし、北条氏やそれらに従う御内人らが政を独占し、牛耳る今の体制には不満を抱いている者も多いことでしょう。」
普恩寺仲時
「そうか…そうであろうな。いや、すまぬな。こうも答えにくい質問をしてしまって。じつはな、先程、判官殿(道誉)にな…」
仲時は、道誉に言われたことを話した。
足利高氏
「なるほど、判官殿が…」
普恩寺仲時
「よくわかんないだろ?あの人。私も仕事柄よく付き合うことは多いんだけどな…」
そういって笑う彼の声色は、いつもの親友としての彼のものに戻っていた。
足利高国
「大丈夫です。つかみどころがないお人だとは、私も思うておるので。」
普恩寺仲時
「そうか。私だけではなかったのだな。全く困ったお方だ…嫌いではないがな。」
そう言って、仲時は苦笑を浮かべた。
つられて高氏や高国も笑みを浮かべる。
その後、高氏達、足利軍は、京から鎌倉へと戻って行った。
年が明けて、一三三二年の春。
御醍醐の帝は、隠岐へと流されることとなり、持統院統の嫡流であった、量仁親王が新たに光厳天皇として即位した。こうして事態は一度、治まったのである。
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