第十一話 動乱の始まり②

高氏、高国。北条を見限れ――

一三三一年の暑い夏、病床にあった足利貞氏は、二人の息子にそう言った。


足利高氏

「何をおっしゃいます。父上。確かに私は帝を敬愛しておりますが…。北条と足利は一心同体といつもおっしゃていたのは父上ではございませんか。だからこそ、私も登子を妻としたのでございます。なぁ、高国。」

高国はうつむいて、なにも言わない。


足利貞氏

「確かに、私はそなたが跡をついでも、北条からの信頼を得られるよう、そなたの縁談をすすめた。しかしそなた自身が北条といつまでも馴れ合っていれば、お前も本当に北条一門とみなされ、倒幕を志す者によって、北条と共に足利も滅ぼされるかもしれぬぞ。」

足利高氏

「でも、ありえるのでしょうか。幕府が、北条が負けるなど。」

足利貞氏

「あり得る。それにもし仮に此度の反乱を鎮圧できたととして、この先そなたが北条とうまくやっていけると思うておるのか。そなたの祖父を思い出せ。千寿王も生まれた今、そなたがどのような目で見られることか。今の北条に、足利が共倒れする価値があると思うておるのか。」

そう言われてしまうと、何の反論ができない。高氏の祖父、家時はおよそ50年程前、1284年に謎の自害を遂げていた。家時は高氏と同じく、北条の女性ではなく、上杉の女性が生母であった。一方、幼くして父である家時を亡くし、足利家の家督を継いだ貞氏は、千寿王と同じく、北条の女性が生母であった。



赤橋登子

「どうしたのです、殿。思いつめたような顔をして。」

足利高氏

「いや、なんでもない。」

部屋から出てきた高氏の顔を深刻そうであった。見かねた登子は声をかけたが、先程父と交わした会話、その内容はとても登子に聞かせられるようなものではなかった。



~1331年(元徳三年/元弘元年) 秋の始め~

御醍醐天皇は取り調べが進む中、京都を出奔。自身の皇子達と共に、その後笠置山に立て籠った。

足利家当主・貞氏がなくなり、高氏が家督を継いだのは、その日からからすぐ後のことであった。


赤橋登子

「さあ、ご先祖さまにご挨拶なさい。」

千寿王

「うー?」


登子は千寿王をつれて、浄光明寺に来ていた。先祖に千寿王を会わせるのと、高氏のご武運を祈るためである。

しかしー

それについてきている男達が何人かいた。


赤橋登子

「こんなところまで監視とは、ご苦労様ね。」

北条の郎党

「いえ、別に見張りではございません。大事な北条一門の姫君であり、いまや足利家棟梁のお方様(妻)なのですから、その身辺の警護をしているのみにございます。」

赤橋登子

(嘘おっしゃい。まったく、まだ義父上(足利貞氏)を亡くしてまもない殿に、無理をいって出陣を命じたのは北条だというのに。)


まあ、太守殿(北条高時)が命じたとは考えにくい。おおよそ長崎高資あたりだろうか。そう思いながらあきれる登子であった。

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