第十話 動乱の始まり

一三三一年(元徳3年) 春

~京の都ー陰謀渦巻く、日の本の都にて~


御醍醐天皇

「最も期待をかけておった世良(世良親王)も亡くなってしまった。持統院統からも大覚寺統からも朕の退位を望む声も大きくなってきておる…。」


帝の倒幕計画。

京の正親町公蔭という貴族に嫁いだ、赤橋種子の下にその情報は届いた。

赤橋種子

「近頃、都が騒がしゅうございますねぇ。」

正親町公蔭

「あぁ。帝の倒幕の容疑の件でな。」

御醍醐天皇は、なんと幕府を倒す計画を進めていた。しかし、御醍醐天皇の側近、吉田定房がそれを事前に六波羅探題に密告。吉田定房は帝のことを思い、計画が失敗したとのことを恐れて、側近たちが勝手に進めたこととしてあえて密告をしたともされている。何にせよ、帝の側近達は捕縛され、帝の容疑も晴れずにいた。。


赤橋種子

「全く、正中の時の一件もあったというのに。」

1331年よりさらに7年程前にも、いわゆる正中の変という事件が起こり、後醍醐天皇に倒幕の容疑がかかった。

正親町公蔭

「でもあの時は、本当に帝に倒幕のご意思があったかどうかはわからないよ。

陛下を陥れたいと思う者の仕業という噂もある。結局、真相をうやむやにしたかった幕府によって、本当のことはわからないけども。」

今回の一件とは違い、7年前の一件はでは帝の側近一人が流罪とされるに留まった。

幕府が及び腰となったからだともいわれているが、本当に帝は無罪であり、彼を帝の座から引きずり下ろしたい人物によって、でっち上げられたとも言われている。


赤橋種子

「関東申次(幕府と朝廷の連絡役)の西園寺家の皇后様とも仲睦まじいといわれておりますものね。その妊娠を祈祷していたのも、本当に幕府とのつながりを重視してのことだったなのかもしれません。こたびも大事に至らなければよいのですが…。」

正親町公蔭

「あぁ、同感だ。また巻き込まれて、官職を失いたくはない。」

15年程前に1316年に、養父の失脚に巻き込まれた彼は、そう言ってため息をつくのだった。


その年の暑い暑い夏の日

~武家の都・鎌倉~

赤橋登子

「殿。京の姉上(赤橋種子)から、此度の帝の一件のことでまた手紙が。」

足利高氏

「ああ。京も鎌倉も、大変な騒ぎとなっているそうだな。まあ、足利家中はそれとは別に大事を抱えているのだが。」

足利家当主、足利貞氏が大病を患っていたのである。


足利高国

「兄上、父上がお呼びです。私と、兄上に伝えたことがあると。」

赤橋登子

「そう。では私はおいとまいたしますね、殿。」



足利貞氏

「おぉ。来たか、高氏、高国。」

足利高氏

「あぁ、あまり無理をしないでください、父上。」

足利貞氏

「そういうわけにはいかぬ。これは、私には結局できなかったことだが…高氏、高国。北条を見限れ。」


父の言葉に、二人の息子は耳を疑った。








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