第八話 足利の子と北条の子②

足利高国

「どことなく、父君に似ておられますなぁ。」

長崎高資

「祖父君の亡き貞時公にも似ておられますよ。」

北条高時

「…。父上か。私が物心ついたときには、既に酒浸りになってしまっていたからな…。高国なんかは、顔も覚えてはおるまい?」

北条貞時は、元々は生真面目な人物で、政治に対しても意欲旺盛であったと、父(足利貞氏)から聞いている。しかしその晩年、嘉元の乱という政争が起こり、幼い息子二人に先立たれた後、急に糸が切れたように、政務に意欲がなくなり、酒浸りとなってしまったそうだ。その結果、幕府の政務は、主に長崎氏や、北条氏庶流、外戚の安達氏らを中心に運営されるようになり、得宗(北条家本家)までもが、お飾りになってしまった。そんな状態の上で、幼くして得宗家を継いだのが、病弱である北条高時だった。


足利高国

 (良いか、悪いかは置いておいて、哀れな方ではあるんだよな、高時殿は。)


北条高時

「ん。どうした。高国?」

足利高国

「いえ、すいません。そうですね。太守殿のお父君が亡くなられたとき、私は4歳でしたから。それより、この子はどうするのですか?」

北条高時

「いや、鶴岡八幡宮へ出家させる予定だ。この子もいるからな。」

そう言って高時が目を向けたのは、御内人の側室を母に持つ、暫定の嫡子である太郎(北条邦時)であった。北条家に対する思いはともかく、やはり赤子は可愛らしい。亀寿丸と名付けられた、やがて寺に送られるであろう生まれたばかりの高時の次男を腕に抱きながら、高国は、竹若丸や、先日東勝寺に預けた、高氏落胤を思い浮かべた。


足利高国

「出家、といえば、千寿王が生まれたのに伴い、竹若は出家させましたが、得宗家は千寿王と、亡き我が兄(足利高義)の遺児のどちらを嫡流につけるかについての意向はあるのでしょうか?」

長崎高資

「いや、それはもちろん北条を母にもつ、延福寺殿の遺児君を…」

北条高時

「それは、足利の家で決めることだろう。高氏は北条家の婿のようなものだし、千寿王は赤橋家の血を引いている。そちらが嫡流でも問題ない。」

長崎高資

「た、太守(北条高時)…。」


婿という言い回しはともかく、北条高時が、高氏の家督継承に対し反対の意向を持っていないことを意外に思い、むしろあっさりと見捨てられたともいえる、三郎(足利高義の遺児)が 少し可哀想に思えてしまう。


色々な思惑が絡み合う政事とは裏腹に、生後半月ほどの亀寿丸と、その赤子の頬をつつきながら可愛がる、まだ幼き太郎(北条邦時)という兄弟睦まじい様子をみて、高国は微笑ましくおもうと同時に、今の北条家と幕府の状況を鑑みて、どこか心を痛みを覚えるのであった。

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