第五話 鎭西探題

博多。国際色豊かな街。古くから太宰府などが置かれ、海の向こうの大陸との関係が深かった。その地に、元寇以後、幕府が九州においた機関である鎮西探題の屋敷はあった。当時の屋敷の主の名は、赤橋英時。執権赤橋守時の弟であった。


赤橋英時

「ふふっ。」

赤橋桜子

「誰からの文なのです?随分と楽しそうに読んでおられるようですが。」

赤橋英時

「あぁ。登子が讃岐守殿の次男殿(足利高氏)に嫁いだだろう?私は軽々しく鎌倉に行けぬため、彼の顔を実際に拝見できるわけではないが、こうして文をやり取りしているのだ。」

赤橋桜子

「足利殿(足利高氏)といえば、和歌に興味があり、昨年できたばかりの続後拾遺和歌集にも一首入選したそうですね。まあ、英時殿も入選しておられますが。」

赤橋英時

「ま、まぁな。ここ鎮西探題での役目を終えて鎌倉に戻ったら、実際に会って和歌や書物を語り合ってみたいものだ。本当、時々鎌倉が恋しくなるよ。」

赤橋桜子(春渓尼)

「そうですか?私はこの活気あふれる博多の地が好きです。兄上に付いてきてよかったと思うております。」

金沢(赤橋)種時

「桜子殿といい、種子殿といい、本当に行動力にあふれておりますね…。私なんて、ここでの仕事が辛すぎて、いい思い出なんてきっと残りませんよ…。今は、にもこき使われるし。」

そう言って憎まれ口を叩く種時は、英時や桜子の異母兄であり、金沢家の養子になっている。英時が博多にくる以前にも、1年ほど代理の探題をしていたこともあり、今は英時の補佐をしていた。


赤橋英時と、その姉で、平朝臣守時(赤橋守時)の娘と称される女性(今作では赤橋桜子)は、九州の和歌の世界で活躍しており、英時に至っては、勅撰和歌集にも多数の和歌が掲載されていた。



こちらもまた、九州のとある場所。


「いやー。今日は素晴らしい日だ。あの子も遂に兄になるのじゃな。」

そういって男が目線を移した先は、未だ10歳になったばかりの、彼の初孫であった。

「まだ、お気が早うございますよ。父上。男子だとよいのですが。」

「儂は、無事に産まれれば、どちらでも構わん。跡取りの孫は既に居るゆえな。男子ならばいつか当主である兄を支える立派な武士に育て、女子ならば、いつか素晴らしい伴侶見つけてやらねばな。」


そう言って、孫ができたことを喜ぶ、初老の男の名は、少弐貞経。九州の名族の一つ、少弐氏の五代目当主である。


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