第二話 婚約②

一三二六年(嘉暦元年) 四月

執権を務めていた、北条得宗家(本家)の北条高時が大病を患った。回復する見込みはない。それに伴い彼は執権を引退し、出家することとなった。問題は、次の執権を誰がやるかということである。高時の嫡男である太郎(北条邦時)は、なにせまだ2歳である。成長するまで、誰か他のものが代わりを務めるほかない。その代わりを誰が行うかで、一悶着あった。最初は、北条被官である御内人である長崎氏の推す、連署(執権に次ぐNO:2)であった金沢貞顕が執権となったのだが、それに反対を示す者がおり、彼を殺害しようとしているという噂まで流れ、恐れた彼は、執権をわずか10日余りで執権を退職した。そこで白羽が立ったのが赤橋登子の兄で、赤橋家当主である、赤橋守時であった。


長崎円喜

「頼む。貴方しか執権になれるものは居ない…。立場的にも貴方は一番引付頭人

(NO.3)だ。連署であった金沢殿の次は、貴方が中継ぎを務めるのが筋だろう。」

赤橋守時

「しかし…。」

長崎円喜

「貴方ならば、我が息子である高資も、四郎殿(北条泰家)も、安達家の方々も、納得なさるだろう…。そうであろう、秋田城介殿(安達時顕)。」

北条泰家と安達家は、金沢貞顕が執権になるのに反対した者たちである。安達家は、安達の姫である覚海尼を母に持つ、北条高時の同母弟である北条泰家を次の執権に推していた。赤橋守時は、金沢貞顕を推す長崎家の派閥からも、北条泰家を推す安達家の派閥からも納得ができる人物であった。


安達時顕

「ええ。もちろんでございます。まあ、大方様(覚海尼)様は未だに太郎(北条邦時)様が、いつか執権になられることを快くは思っていませんが…。ひとまずの中継ぎとして、仕事熱心な赤橋殿ならば責任を持って務めてくれるはずであり、適任だとおっしゃっていました。」

赤橋守時

「もったいなきお言葉でございます。大方様がそうおっしゃるならば…。断ることはできないようですね。」

安達時顕、長崎円喜

「お引き受けいただき、うれしく存じます。」


赤橋守時

 (まったく…。面倒なことになった。太守様(北条高時)の後見を託された二人(安達時顕、長崎円喜)に頼まれては、断れるわけないではないか。)


こうして、赤橋守時は、第十六代執権となった。



その日も激務を終え、屋敷に帰ると、妻子と共に、妹の登子が迎えてくれた。守時は、この父を2歳でなくした妹を、娘のように思っていた。弟達は皆独り立ちし、登子以外の妹達も、嫁いだりして、この屋敷から遠くの場所にいる。


赤橋守時

 (登子の嫁ぎ先も、慎重になりすぎてずっと先延ばしになっていたが、そろそろ本当に決めねばな。)


足利高氏との縁談の話が持ち込まれたのは、そのほんのすぐ後の話だった。

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