第13話

 真理亜と村田は、テロリストたち数人に引き連れられて、ワンのいる総指令室らしき部屋に連れて来られた。

「ワン先生、こいつらがネオ・クーロンの中をうろついていました」テロリストの一人が言った。

 テロリストは、二人から奪ったスマホをワンに差し出した。

「ウイグルの方からも情報が入っていたが、日本の諜報部員か? それともアメリカの?」

 そう言いながら、ワンは二人のスマホを色々と調べていた。

「CIAと例の……」ワンがつぶやいた。

「さっき資材の搬入があったんですが、トラックの運転手とみられる人物二人が、ユニフォームをはがされて道端に放り出されていました。こいつらが入れ替わってたんだと思われます」テロリストが言った。

 ワンは、スマホの更新記録を見ていたが、その中から、真太たち香港潜入班のグループラインを見た。そして、こう言った。

「もう一人いるな。探せ」

「分かりました」テロリストたちは、部屋を出て真太を探しに行った。

ワンは、不敵にも和磨に電話した。


「ウイグルが憎い……。ウイグルが憎い……。ウイグルが憎い……」そう苦しそうに言いながら、ルークはうなされていた。

「ウイグルの人たちのことを悪く言わないで。お願い、ルーク」傍らのクルムが悲しそうに声をかけた。「ウイグルの人たちの全てが悪いわけではないわ。テロリストは、ほんの一握りの人たちよ」


 堺市にいる和磨のもとに電話が入った。

「ワンか?」和磨がそう言った。

「そうだ」ワンは日本語で答えた。「お前が送り込んだ部下たちは、現在、こちらの手の中にある」

「そうか。芹澤希望さんもそっちにいるのか?」

「彼女は無事だ。彼女が死んだら、身体の中にある抗体はダメになってしまう。誰が好き好んで彼女を殺すもんか? アメリカだって、日本だって、WHOだってそうだろう。もちろん中国も……。世界中が彼女の命だけは守ろうとするだろうな」

「彼女は人質ってことか?」

「それと、お前の部下もな。既にここの場所は特定しているだろうが、こちらには人質がとってある。むやみやたらとここへ突入しようなんてことは、考えないことだな」

「なるほど。……で、要求は無しか?」

「ああ、一言、それだけ言っておきたかった。俺たちの目的も、あらかたはつかんでいるんだろう?」

「香港とウイグルの独立のために、ウイグル人を白御神乱させて利用する」

「まあな……。そんなところだ」


 ネオ・クーロン内をさまよっている真太に、和磨から伝言が入った。

「村田君と中島君がワンに捕まった。気をつけろ。今後は、グループラインは使用するな」

 その文面を確認した真太。


 和磨からリウへ連絡が入った。

「クルムさん、それと俊作たちに、急いでウイグルから脱出するよう伝えてくれ」

「津村さん、和磨さんから電話です。全員、ウイグルから至急脱出するようにって」

「クルムさん、ちょっと代わってくれ」俊作が言った。「和磨さん、北京へ戻るんですか?」

「ああ、北京でも何でもいいから、ウイグルから離れろ。三日後にはウイグルは占拠されて出れなくなるぞ」

「分かりました。飯島さんたちの方は?」

「村田君と中島君がテロリストに捕まっている。芹澤希望さんも同じ施設に拉致されているみたいだ」

「ええ!」

「今は、飯島君だけが動いている」

「分かりましたが……」

「何か問題が?」

「ルークが発症していて……。しかも、ルークさんは……」俊作は、ルークの現状と被爆経験について和磨に説明した。

「分かった。しかし、そこに留まると、もうそこから抜け出すことが難しくなる。ルークも連れて、何とかしてウイグルから出るんだ」和磨が言った。

「分かりました」


 和磨は、堺市役所の会議室に関係者を集めて説明会を開いた。そこには、松倉総理、鹿島副総理他、各閣僚諸氏、そして美姫、彩子や瞳も呼ばれていた。

「では、事件の概要につきまして、井上大臣の方から説明していただきます」鹿島が言った。

「外務大臣の井上和磨です。これまでに我々がつかんでいる情報につきまして、政府関係諸氏にご報告いたします」和磨の説明が始まった。「彼らは、香港に拠点を置いている、香港の独立を目指すテロリストと、もう一つはウイグルのカシュガルに本拠地を置く東トルキスタン解放運動のテロリストたちです。主導権は香港側のテロリストが握っていると思われ、その首謀者はワン・ユー・ハン、香港名サミュエル・ウォンという男です」

 和磨は、これまでのいきさつや白ウイルスおよび白御神乱の存在を説明した。

「ワンは、香港にいた頃、彼がまだ学生だったときには、民主運動家でしたが、その後、民主運動家の仲間を裏切る形で中国共産党に入党し、さらに人民解放軍として軍に配属されます。彼は、すぐれた細菌学者でもあり、日本の大学に留学したこともあります。このときの、彼の恩師に当たるのは、大戸島で御神乱ウイルスの研究をしていた芹澤昭彦博士です。博士は、既に二十年近く前に御神乱ウイルスのワクチンを完成させ、それを自らの一人娘である希望さんに接種していたものと思われます」

「中国軍が大戸島に上陸し、そこから御神体である二つの石棺を持ち出しますが、そのとき、ワンは芹澤希望さんを誘拐して連行します。そして、中国への帰途、揚陸艦からワンと希望さんの姿は忽然と消えました。おそらく、ワンは、希望さんの体内にある御神乱ウイルスの抗体に目をつけたのでしょう」

「それから、二年が経った現在、ウイグルでは、香港の病院で御神乱ウイルスの治療薬の治験者を募集しているという偽の情報が流されます。我々の調査により、彼らは白ウイルスというものを投与され、香港に移送されていることが分かりました。と同時に、カシュガルの中心部にある大規模な収容所がウイグルのテロリストの手に落ちており、ウイグルの収容所の人たちにも白ウイルスが投与されていることが分かりました」

「さて、では次に、この白ウイルスについてです。現在、世界中のほとんど人々は、御神乱ウイルスの赤タイプか青タイプに罹患しているわけですが、ワン・ユーハンと仲間のジャオ・ユーチェンによって開発されたと思われるこの白ウイルスは、赤と青の両方を補完する形で、両方を体内に発生させます。それによって、背中は白く光るようになり、驚くべきことに、口からは核融合火焔をはくようになります。これが、香港の地下にある白御神乱の牧場のような場所で行われていた、その実験の様子です」

 真太が撮影した映像がスクリーンに映し出されると、会場が大きくどよめいた。

「彼らは、中国政府に恨みを持ち、被爆しているウイグル人を利用して白御神乱化し、それを核融合兵器として利用することで、香港とウイグルの独立を目指そうとしています」

「そのアジトは、香港にある古い海運業者の十五階建てのビルです。この同胞海運の古い十五階建てのビルには、現在、うちが送り込んだ女性諜報部員が一名、アメリカCIAの諜報部員が一名、人質として捕えられています。そして、もう一名、内閣府の職員が中に潜んでいます。さらに、二年半前に大戸島からワンに連れ去られた芹澤希望さんが中にいるものと思われます」

 この話を聞いて、会場は再びどよめいた。

「我々としても、関係各国と連携しつつ、一刻も早くこのテロリストのいる本拠地へ踏み込んで捕えられている四人を解放したいのですが……」


 ネオ・クーロンの前に一台のタクシーが止まり、中から一人の女性が降りた。マギー・ホンだった。建物の中へ入って行くマギー。

「スティーブ・リーからここへ来るように言われて来ました」マギーが言った。

「スティーブさんは、まだお見えになっておりませんが、皆さま、首を長くしてお待ちですよ」

 数時間の後、今度はまた別の車が止まった。中から出てきたのは中年の男女だった。スティーブ・リーとサンディ・チャンだ。

「はるばるアメリカからようこそ! お待ちしておりました。先生がお待ちです」

出向かえに出て来た男はそう言い、二人は建物に入って行った。

 真太は、この様子を階段の影からそっと眺めていた。

「あれがスティーブとサンディか」

 真太は、彼らが降りた階を確認した後、廊下の曲がり角に潜んで、巡回していたテロリストを待ち伏せしていた。そして、運悪くやって来た巡回中のテロリストの首筋にスタンガンをあびせ、服をはぎ取って変装した。

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