第12話

 カシュガルのホテルに戻った俊作たち。クルムとルークの部屋に集まっている四人。クルムが皆に告白した。

「いきなり入って来たテロリストの男にレイプされたんです」

「クルムさん……」「クルム!」

 ルークは激しく怒っているようだった。そして、ついにルークの背中が白く点滅し始めた。

「ルーク! お願い、抑えて!」クルムが言った。

「畜生! そうはいくもんか!」ルークの怒りが激しく爆発した。


 シー・ワンのSNSが更新された。

「近々、ウイグルと香港でテロが発生するわ。みんな気をつけておいた方が良いわ。ある情報筋から聞いたところによれば……、これはね、御神乱を使ったテロらしいわ。そしてね、その御神乱というのは、人為的に変異させた御神乱ウイルスから造られたもので、背中が白く光るらしいわ」


 リウがスマホを見ていた。

「あ、またシー・ワンのティックトックが更新されたわ。今度は香港とウイグルでのテロ予告です」「彼女、本当に、一体どうしてこの情報をゲットしてるのかしら?」クルムが隣のベッドで苦しそうにして寝ているルークを介抱しながら言った。

「考えられるのは三つだな」俊作が言った。「情報提供者が我々の中にいるのか、テロリストの中にいるのか、はたまた、中国政府の中にいるのか。そのどれかだ」


 海に面した、今は使われていない十五階建ての海運会社のビル。それは、同朋海運が所有している建物の一つだった。その裏手にある大きな搬入口に真理亜は張っていた。

 すると、はたして例のウイグルからやって来たトラックがそこへ入って行った。すかさず真太と村田にラインを送る真理亜。

「今、例のダブルナンバープレートのトラックが入って行ったわ。この海沿いの十五階建ての古いビルが、彼らのアジトで間違いないと思う」

「了解、俺らもこれからそっちへ行く」


 真太と村田は、真理亜のいる同朋海運の古いビルへ集合した。

「和磨さんから連絡が入ってる」真太が言った。

「ああ、俺たちのスマホにも入ってきてる」村田が言った。「白ウイルス、VR、ウイグル人をだまして拉致し、白御神乱にメタモルフォーゼさせる。そして、その白御神乱を利用することによるウイグルと香港の独立と解放。こんなところかな。……あ、あと、マギー・ホンとワンの学生時代の関係とか、マギーが双子だってことも書いてある。念のため、何か関連があるかもしれないからってことでね。マギー・ホンの妹が生きているみたいで、ワンは、それを利用して担ぎ出す可能性もあるということだ」

「それで、白御神乱は、今までの青御神乱や赤御神乱とはどう違うの? それに、それにとの芹澤希望さんとの関連とかは……」真理亜が言った。

「そうだな……。まだ謎だらけだな……」真太が言った。

「……さて、では、どうやって潜入する? トラックが次に来るのは一週間後だぜ」村田が言った。

「出入りしてるのは、ウイグルとの運搬トラックだけじゃないだろ。例えば、宅急便とか、デリバリーとか……」真太が言った。

「そうねえ、とりあえず、そういうのに変装して入っちゃうって言うのは?」真理亜が言った。

「そうだな」

 ちょうどそこに、おあつらえ向きの運搬車がやって来た。

「よし、あいつを狙おう」

 真太が道の真ん中に立ち、両手を広げて運搬車を止める。片言の広東語で言った。

「ワンさんからの指示だ。中のものを調べる」

「俺たちは、ネオ・クーロン城に物資を届けに来ただけだ。いつもやっていることだが……」

 しかし、真太は運転席と助手席に腰掛けている二人をスタンガンで気絶させて、トラックから引きずり出した。

 そして、彼らからユニフォームを奪うと、すばやく着替えてトラックに乗り込んだ。真理亜はトラックの内部に身を隠した。

 真太たちは、ネオ・クーロン城と呼ばれる、その海運業者の古いビルの裏手にある搬入口にトラックで入って行った。

「物資の搬入に来ました」真太が言った。

 すると、搬入口の大きな扉が開いて、トラックは中に入って行った。

「ご苦労さん。おや、いつもの人たちと違うんですね」

「はい。シフトが変わったんで。じゃあ、ここにサインを……」そう言って、書類を出してサインをさせた。物資を搬入し終えると、再びトラックは外に出て行った。しかし、身を隠していた真理亜は中に残っていた。

 彼女は、搬入口のわきにあったボタンを押して、中からドアをあけてやると、真太と村田の二人が入って来た。彼らは、ネオ・クーロン城の潜入に成功したのだ。


 身を潜めながらネオ・クーロン城を捜査する真太たち。

「シン、お前、希望さんの顔はちゃんと覚えてるんだろな? お前しか彼女の顔を知っている人間はいないんだからな」

「ああ大丈夫だ。でも、俺と真理亜が彼女に会ってから、かれこれもう四年以上経っているからなー。あのときは、確か十六か十七歳の少女だったけど、今は二十歳くらいになっているはずだからな」

 地下に降りていく三人。村田が言った。

「分散して動こう。三人一緒だと見つかりやすいからな」

「あ、ああ、そうだな」真太が言った。「じゃあ、気をつけてな。俺はこのまま地下を探る」

「了解だ。何か新しい発見があったら、画像で送ってくれ。和磨さんへの報告も逐一行うこと。それから、スタンガンは身に付けておけよ。」村田が念を押して言った。

 そう言うと、村田と真理亜は上の階の方へと上っていった。


 真理亜は、牢屋に拉致されている人々を発見した。それぞれの房では、ウイグルのものと同じようにベッドが用意されており、彼らは、その上で背中を青やピンクや白に光らせながら、苦しそうにのたうちまわっていた。そして、脊髄の両端の青とピンクの光は、今まさに中央部で合流して白く光り始めるものもいた。

「白ウイルスを注射されて連れて来られたウイグルの人たちね」真理亜が言った。

「た、助けてくれ……! 中国共産党のやつらが憎くてしょうがない……」

「チェンのやつを……、やつを殺してやる!」

「頼む! ……ここから出してくれ!」

 口々に恨みの言葉を口にしていた。村田は、他の二人と和磨に画像を送った。


 真太が降りて行った地下は思ったよりも深く、彼は、地下五階かそこらに相当するであろう古びた鉄の階段を降りて行った。

 彼は地下の最下層部に到達し、そこにあった大きな扉を開けた。そこは、今降りてきた深さそれ以上に広かった。おそらくは、この施設は海底にまで突き出ているのではないかと思えた。

「でけーなー!」「おや、何だあれは?」

 真太の目の前には、おびただしい数のベッドが並べられており、そのそれぞれには、鎖でつながれた御神乱が眠らされていた。いずれも背中が白く光っていて、額には何か装置のようなものが埋め込まれていた。それぞれの御神乱は、整然と寝せてあるものの、巨大化したときのことを考慮してか、ある程度の距離を空けてあった。

「これが白御神乱ってやつか……。それにしてもすごい数だな! まるで御神乱牧場だ」

「あの額に埋め込まれているのが、VRを使って直接脳にイメージを送っている怒りの増幅器だな」そう言って、画像を送信する真太。

 すると、巨大な御神乱牧場の一角に、まだ巨大化していない一体の御神乱が寝台に乗せられて連れて来られた。背中が著しく白く点滅していたが、その御神乱は寝ているらしかった。

 寝台は隅の方にある実験施設らしきところに据え付けられた。寝台の真向かいには分厚い鉄板が立ててあった。

「何だろう?」そう言いながら、画像を録画する真太。

「準備オーケーです」連れてきたテロリストの一人が言った。

「よし。VR覚醒モード! イメージ・オン」

 次の瞬間、その御神乱は目覚め、激しく猛り狂うと、背中の光が白く光り、その光が顔面の方へ向かったかと思うと、何と口から白い光線を吐き、御神乱の目の前に立ててあった鉄板を一瞬で昇華させた。

「良い感じだ。成功と言えるだろうな。これらが巨大化すれば、もっと大きな破壊力が生まれることになる」

「そうですね」

「スリープモードにしろ」

すると、猛り狂っていた御神乱は、再び眠ってしまった。

「核融合火焔の実験、終了」

これを見ていた真太は、背筋がぞっとした。

「これが白ワクチンの正体だったのか……」

 真太は、急いで上の方へと上がって行った。


 村田は、十四階にある管制センターらしき部屋の外にいて、中にいるテロリストたちの作業を観察していた。管制センターの中にいるテロリスト二人は、何やら確認作業をしているらしかった。

「大宇との通信状況はどうだ?」

「そっちは良好」

「静止衛星っていうのは、昔は蝕に入ると通信が途絶えてたもんだがな。今は技術の進歩で全く関係なしだな」「大宇からウイグルの方への電波は?」

「そっちも良好だ」

「明後日までに使える白御神乱は、どのくらいだ?」

「香港が二十体で、ウイグルも十ってとこですかね。ただし、香港の方は、防衛として最低でも十体ほどは欲しいんで、北京の攻撃に使用できるのは、せいぜい二十体というところですかね」

「了解だ。本当はもっと欲しいところだがな」

「明後日……? 北京攻撃?」村田は思った。

 村田は、そばにあった大きな柱の陰に隠れて、今聞いた話の内容を真太たちと和磨に送信しようとしたのだが、そのとき、村田の背中に銃を突きつける者がいた。

「お前、何ものだ?」テロリストがそう言った。


 ちょうどその頃、真理亜は、留置所の詰め所にいたテロリストたちに見つかって、留置場内を逃げまくっていた。ネオ・クーロンの中をあちこち逃げまくっていたが、やって来た仲間のテロリストに挟まれて捕まってしまった。


 真太に和磨から連絡が入った。

「飯島君、村田君と君の奥さんが捕まったみたいだ。スマホを取られてる。気をつけろ。これ以降、この回線は使用しないこととする。返信不要。幸運を祈る」

「大変だ!」真太がつぶやいた。


 カシュガルのホテル、ルークの背中の光は激しさを増していくようだった。

「だめです。発症しないで! ルーク」クルムが必死に言う。

「彼、被爆者なんです。発症すると巨大化してしまう。しかも私たち、白ウイルスを摂取されてて……。とんでもないことになってしまう」

「ルークさんが被爆していることは留置されているときに聞きました。中東での取材中に劣化ウラン弾で被爆したって……」俊作が言った。

「ええ、そうなんです」

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