第2話 クラスメイト
『ここにTAは置いてけ。んで放課後、屋上に来い』
命令。
最早、脅迫だ。
「…………こふっ」
入学初日の自己紹介の時間。
大悟は今朝の出来事と放課後に待ち受けている不良との会合、TAイマンなどと言う喧嘩と変わらない行いに対する不安からかストレスを覚えていた。
「…………」
他の生徒達の自己紹介は右から左へと通り抜けていく。気持ちはそれどころではない。
「逃げても死ぬ。行けばTAイマン……つまり死ぬ。どっちがマシだ」
究極の二択だ。
より良い死に方はどちらか。
TAイマンは大悟にとって慣れない喧嘩をする事。これが直接的に死につながる事はないと思って良い、はずだと大悟は考える。もし、燐から逃げれば。
「……ゴクっ」
悲惨な高校生活が幕を開ける。
難波高校のトップと喧嘩をする方が、同じ学校にいる燐を敵に回すよりも明るい未来に思えてくる。
「────次、君だよ?」
前に座っていた茶髪、ショートヘアーの人懐っこそうな少女が大悟を見つめながら言う。
「は、はいっ!」
声が裏返った。
女子に声を掛けられ緊張したのではない、と大悟は内心で呟く。
「曽根屋大悟です。一年間よろしくお願いします!」
サッと立ち上がり、口早に紹介を終え、席に座る。大凡五秒。圧倒的な速さであった。
「…………」
教室は呆気に取られた様に数秒、流れが滞るが、また直ぐに自己紹介が再開する。
「腹が……いや、胃が痛い」
無事に自己紹介が終わる。
入学初日という事もあり、ホームルームが終了してしまえば今日は解散だ。新入生は部活なども特にはない。
いよいよもって運命が近づいてきている。
「ねー、ね」
目の前の席の女子は椅子ごと大悟の方へと向けて座っていた。
「曽根屋くん、だよね?」
「ア、ハイ」
「初日から緊張しっぱなしで面白いね」
クスクスと笑う。
「ソノ、アナタハ」
「あ、私? 自己紹介聞いてなかったの?」
「頭イッパイ」
「あはは、面白〜……! そんな緊張する事ある!?」
一頻り笑った後で彼女は「ごめんごめん。私、
「はっ……」
正気を取り戻した。
「春山さん」
「うん?」
「そ、そう呼ぼうかと思いまして……」
「よろしくね、曽根屋くん。じゃ、帰ろっか」
何だか一緒に帰る様な雰囲気になっているが。
「あ、お、俺……」
「俺?」
「用事あるので」
「えー!? 断るの!? 女子からの誘いだよ! 結構可愛くないかな、私?」
自分で言うのか。
「いや、本当に」
「ちぇー……じゃ、また今度ね」
バイバーイ、と咲良は鞄を持って教室を出て行った。命に関わる様な物と、初対面の美少女との下校なら殆どの人間は前者を選ぶだろう。
曽根屋大悟はマイノリティではない。
「────逃げずに来たか」
屋上では既に燐が待っていた。
「褒めてやるよ。来なかったら、なァ……」
どうなるかは分からないが、碌なことにはならない。
「これからの事だけどな。まずテメェはオレの代わりにTAイマンを張る事になるが……誰にもバレんな。オレの代わりにTA着てTAイマンして、オレとして勝て」
燐の言葉に対し「俺、喧嘩素人なんですけど」と返す。
「このTAは最新式だ。運転補助もありゃ、ケンカの補助もある。安心しろ」
座席部分を叩きながら彼は言う。
「テメェの晴れ舞台だ。まずは乗り越えろ。このマシンスペックなら難波高のトップは余裕で倒せる。そんくらいのアドバンテージがある」
ツカツカと燐は大悟の右肩を右手で押さえて。
「勝てなかったら、なァ?」
嫌な想像を掻き立てる様に。
曽根屋大悟はTA(単車アーマー)イマンを張らなければならない ヘイ @Hei767
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