曽根屋大悟はTA(単車アーマー)イマンを張らなければならない
ヘイ
第1話 VPS、或いはTA
西暦二一XX年。
時代はヤンキー戦国時代。
ヤンキー達はバイクではなく
「オイ! そこの! 邪魔だ、退け退け!」
TA。
ヤンキー達の間ではそう呼ばれている。
正式名称VPS、ヴァリアブルパワードスーツ。不良達はやはり不良なのか。時代が変わっても専ら、バイク型を好んで乗りこなしている。
「手前、どこのモンだ!」
公道をTAで走りながら言い合いをしている。
「うっわ……」
そんな様子を眺め少年、
「朝っぱらから良くやるよ」
彼はつい先日、この街に来たばかりだ。
彼の心が極めて平静を保っているのは何度かTAに乗る青年達の先程のようなやり取りを目にしているためからか。
いや、そもそもこのご時世だ。
大悟の地元も似た様なものだったのだから、呆れはあれど驚きはないのは当然なのかもしれない。
「絶対関わらんとこ」
心に誓い携帯電話、ワイズフォンの液晶に目を向ける。表示されているのは学校までの道のりだ。
「えーと……ここ通んの?」
狭いがマップアプリの指示に従うならば、と不案内な道を恐る恐る進む。
「クソが! どこに逃げやがった!」
「アレがアイツに渡ったら……!」
「ぼ、ボスに殺され……」
「良いから、さっさと見つけ出すぞ!」
ドタドタと忙しない足音が響く。
それが遠のき、暫くしてからガタガタと近くにあったゴミ箱が震えた。
「……行ったか」
頭だけ出したのは眼鏡をかけた三十代程度のボサボサ頭の男だ。
「あの」
「まだ居たのか!? ……って違うのか。驚かさないでくれ」
「何してるんですか」
彼の視線は下に、制服が目に入ったのか「もしかして、君……
「まあ……新入生ですけど」
「それは都合が良い。椿高校の生徒なら一つ頼まれ事をしてくれ」
「え、いや……俺も急いで」
「これを
そうして大悟が男から押し付けられたのはスーツケースだ。
「これ、何が入って……」
「すまないが、そう言う事でよろしく頼む」
押し付けるだけ押し付け、男は走り去ってしまう。
「何で俺が……」
文句を吐いていると、大悟の目の前に息の上がった不良が近づいてくる。
「クッソ……オイ、お前」
「…………」
関わりたくなかったのに、と大悟の目は何処か遠くを見るものに。
「この辺りでボサボサのセンスねー奴見なかったか?」
「すー……アー、見なかったスネー」
舌打ちが響く。
「あっちに居るらしいっすよ!」
別の不良がやってきて告げれば「悪かったな」と走り去っていく。
「……追われてんな」
大悟には理由は分からない。
だが、これ以上関わるのは危険だ。このスーツケースも早瀬燐なる人物に届けた方が安全だろう。
届かないとなれば早瀬燐という人物から探し出され、報復も考えられる。
「はあ」
自分で持っていけ、と言いたかった。
だが、こうなっては無理だ。大悟は仕方がないと諦める事にした。
「────入学初日に職員室に来るなんて珍しい生徒も居たもんだ」
大悟は愛想笑いを浮かべ「あー、その。早瀬燐って人、何処に行けば会えますか?」と用件を伝える。
「早瀬ェ? 屋上だと思うけど……気をつけろよ。アイツは教師でも手を焼いててな」
「あ、あはは。そうなんすね」
とんでもねぇ頼まれ事押し付けやがった、と大悟は内心で叫んだ。
職員室を後にし、スーツケースを持ち上げ階段を上る。
「…………アレか?」
屋上に一人、寝転がった男子生徒がいるのが目に入った。金髪、学ラン。不良然とした如何にもな男だ。
「す、すみませ〜ん」
恐る恐る声を掛けると男は飛び起きる。
「誰だ、テメェ」
「新入生なんですけど」
大悟にも警戒心がある。
初対面の相手に直ぐに名前を名乗らないと言う程度の。
「お届け物を頼まれまして」
「誰からだ?」
誰。
あれは誰と答えれば良いのか。答えに迷う数秒。
「フンッ!」
「えっ!? うわ、うぉおお!?」
突然の蹴り、咄嗟に腕を前で組む。
自然と大悟が想定していた以上に軽かったスーツケースが間に挟まる形となる。
『生体情報を記録しました』
防御の為に力が入った。
それが原因だった。スーツケースから鳴り響く機械音声。
『これよりアーマーモードに移行します』
「はい?」
スーツケースが変形していき、大悟の見覚えのある全身を薄く包み込む様な黒のアーマーとなる。
「TA、まさか……お前!!」
「な、何すか!?」
「それを誰から受け取った!」
大悟の両肩がガッチリ掴まれる。
「な、名前知らないですけど! ボサボサ頭の男の人に『早瀬燐に届けてくれ』って!」
大悟が叫ぶ様に答えた。
「オレが、早瀬燐だ」
そうだろうとは思っていた。
それから、これが初めてのTAである大悟は操作方法を聞きアーマーモードを解除する。
「────ダメだ、どうにもならねぇ」
今は単車モードにしており、屋上にバイクが停まっているという不可思議な光景となっている。TAのハンドルグリップを握るが何の変化も起きない事に燐は溜息を吐き出す。
「テメェの情報で登録されてやがる」
「えぇ……?」
「クソ……今日は
「た、大変そうっすね」
燐は「オレのTAじゃ、流石に出力不足だしな」とボヤく。
「だから、スポンサーがついて、しかも最新のTAが貰えるってのは最高だった」
「スポンサー……?」
「知らねェのかよ」
燐曰く、今は不良達のTAイマンがTA──VPS──が最高の広報の場となっているとの事だ。影響力の大きなTAイマンは何億という金が動くのだと。
そして見事TAイマンに勝利し、スポンサー企業に貢献すれば何かと便利なのだと。
「ひょ、ヒョエ……」
それほどの代物を単なる一学生に任せるとは。
「……テメェなら動かせんのか」
「は?」
「だからよォ……TA、テメェなら動かせんだろ」
一瞬で何を言いたいのかを大悟は理解した。理解したくはなかった。
「テメェ、オレの代わりにTAイマン張れや」
入学初日の朝の話だった。
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