5

 一人暮らしのアパートから実家は電車で30分と割と近い距離にある。

 大学に通う際に乗り換えを減らしたくて一人暮らしを初めてそのまま社会人になった今も立地の良さで住み続けている。


 最近いつ帰ったっけ。というか、お母さん似合うのっていつぶりだっけ。

 手土産にお母さんが好きないちご大福を買って、電車に揺られている。

 こっちの方面に来ること自体久しぶりだな。

 電車で30分でも、窓からの景色が一気にのどかになる。


 電車を降り、あとは徒歩で10分程度歩けば実家だ。私の住んでるところに比べここは少し寂しくて、より一層寒さを感じてしまうのは人の少なさと殺風景な景色のせいだろうか。

 自販機で暖かいお茶を買って、口に含む。身体に温かい飲み物が浸透した。ああ、本当に寒い。マフラーを巻き直して急ぎ足で家に向かった。


 一応、チャイムを鳴らすとお母さんはすぐに出て来てくれて部屋に迎え入れてくれた。

 相変わらず実家は石油ストーブのおかげで部屋がぬくぬくと温かい。最近はエアコンの暖房一択だったから、ストーブの温かさにほっとする。


「望、久しぶりね。急にどうしたの?」お母さんは、買ってきたいちご大福と温かいホットコーヒーを用意してくれた。


「ああ、ちょっとね。元気かなと思って。」

「元気よ。最近はパートの仕事も順調で1人でのんびりと暮らしてるわ。」

「そっか」私は買ってきたいちご大福を食べながら、どう話を切り出すか考えていた。

 お母さんは、由紀についてはあまり知らなくてお互い実家は近かったけど、あの頃のお母さんはあまり良くなかったから私が由紀の家にばっかり遊びに行っていた。

 だから、由紀が亡くなったこともまだ知らせていない。


「ふと、最近お父さんのこと思い出してさ。お父さんってどうして自分で死んじゃったのかなって」遠回しに聞こうと思ってたけど、頭が回らなくてついそのまま聞いてしまった。こういう時、自分のコミュニケーション能力の無さに悲しくなる。


「ああそんなこと。つまらない話よ〜、今だから言えるけどお父さんは別で女の人を作ってたのよ」

「え?」

 お母さんはなんてことない顔で答えた。

 本当に今だから言える話だけど、こういうのはあえて墓場まで持っていくネタでは?と娘ながらに思う。

「それで、えっと、お母さんにバレたから死んだの?」

「どうなんだろね、私が毎日毎日お父さんの不幸を拝んでたから死んだのかもね」

お母さんは笑いながらいちご大福にかぶりつき、美味しい、と笑顔だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大きくなり過ぎた 嘉河 怜 @chips0116

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ