第8話
【お昼ご飯を明日一緒に食べよ!】とメールが来たので、大学構内の食堂入り口でその相手と待ち合わせをしているが、まだ来ていない。
遼平と三人でブランコに乗った、赤いワンピースの似合うあの子と同じ大学で、まさか同じサークルに所属しているとは思わなかった。
俺の顔を見てすぐに気がついたそうだが、すっかり忘れられている怒りとショックで話したくなかったらしい。
今はショートカットでTシャツを着ているから気が付けないよとも言ったのだが、顔で覚えていて欲しかったと不満を漏らされた。
「むっちゃんごめーん」
小さく手を振りながら、あーちゃんが小走りでこちらへ駆け寄ってきた。
「いや、大丈夫。あーちゃんは何食べる?」
「A定食かな。唐揚げ食べたい」
俺はB定食の煮魚定食を頼み出来上がるのをカウンターで待っている間、あの日の話になった。
「そういえば、ゆうちゃんが言っていた例の日って何だったの?」
「ゆうちゃんって誰だっけ」
「魔術研の友達だよ」
答えようとしたら、二人の昼食が来たのでテーブルで話すよと席に移動した。
「で?」
あーちゃんが以前の怖い表情をして俺を見ている。
本当は人生で一番辛い体験をした日に行きますと言われたのだが、少し外れていた。
占いも絶対に当たる訳ではないのだなと身をもって体験した。
なので、彼女にはこのように伝えよう。
「良い思い出ができた日に行くでしょうって言われたよ」
「ふーん。良い思い出だった?」
「……そうだね」
実際、ライフラインが回復するまでにあの地域の場合は二か月以上かかったし、正直、口には出したくない人間の嫌な部分も見てきた。
だがそんな中でも今まで忘れてしまっていたのが悔しいくらい良い出来事もあって、怪我をしてでも思い出すことができて嬉しい。
「またあのブランコに乗りたいけど、小学校には入れないよね」
「さすがに無理だと思うよ」
大学生が行くとしたら、教育実習しかないだろう。ブランコに乗りたいなら、公園に行くしかないかなと考え込んでいると彼女から素敵な提案をされた。
「だったらさ、テストが終わったらご褒美に遊園地に行かない?」
「良いね! 夏休みに行くならあの時に一緒にいた、遼平も東京から帰ってくると思うよ。三人で行こう」
「絶対、追試受けないようにしなきゃ」
そういえばあの後、過去問はどうなったのだろうかと気になって聞いてみた。
「過去問は見つけられたの?」
あーちゃんは残念そうに首を横に振った。どうやらまだ見つかっていないようだ。
「入院している間に私も探してみてんだけど、箱をいくつ開けても入っていなかったの」
彼女が言うには、あったのは美味しいカレーの作り方が書かれている三十点の答案用紙や夏合宿におススメの宿、花火大会のチラシ、海に行くまでの道のりが書かれている地図等の試験には全く役に立たない情報ばかりであったという。『気になるあの子誘う為にする百の方法』というインチキ臭い売れていなさそうな本もあったそうだ。
その殆どが、まるで夏休みを楽しく過ごす為の方法を伝授しているようなラインナップだ。最近誰かが触ったような形跡もあったらしく、恐らく何らかの目的があって先輩が先回りして入れておいたのだろう。
何だ、夏合宿でも開催するつもりなのだろうか。行ったとしても、きっと先輩は一日中菓子を食べて終わりだろう。
「自力で勉強しないといけないみたいだよ」
溜息をついてあーちゃんはこちらを見た。
「今日から先輩と三人で勉強会しないといけないよな。もう部室に行く?」
「うん」
ドアの無い部室棟の入口から薄暗く少しカビ臭くて、歩くとギイギイと鳴る廊下を通り、無料占いを行っている魔術開発サークルに『ごめんごめん』と言いながら通り抜けてその奥にあるのが我が歴史研究サークルである。ドアを開けるといつから待機していたのか分からない先輩が既に待っていた。
「お、待っていたよ。向こうのソファに座って。今日の活動を始めよう」
やけにツンケンしてくる後輩の女の子 沖盛昼間 @okimori8864416
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