第7話

 まるで部室にいる時のように感じられた。

 松島さんと先輩は今頃何をしているのだろう。

 

ぼーっとしていると遼平が「ねぇねぇ、聞いて!」と言うのでどうしたと聞くと、親戚からメールで相談を受けたそうだ。

そういえばクラスで一番先に携帯電話を買って貰って、特に用事がある訳では無いのに何度も家に電話が来ていたのを思い出した。懐かしい。


「えーと、『強くなりたいけど何が必要?』だって、どうしよう?」

「それしか送ってこなかったのか? 筋肉とか?」

 俺の答えにあーちゃんは不満のようで両手で大きくバツを作っている。

「違うよ! ヒーローにならなきゃ!」

 するとあーちゃんはヒーローの変身ポーズを取り始め、こう続けた。

「変身アイテム! 手袋だよ!」

「あー! トゲトゲマンだー!」

 

 遼平はそう言うとメールを打ち始めた。

本当にトゲトゲマンみたいに手袋しようと返信したようだ。俺はきっと相手もそんな答えは求めていないと思ったが、黙っていた。

 

 先輩の様にいつも身につける訳ではなくて、そのヒーロー番組が終わればまた新しいアイテムを買うとか、別の方法も思いつくだろう。

 一番は筋肉だよと会ったことも無い親戚君に念を送っておこうではないか。


「あー。美味しかった!むっちゃんありがとう」

「もう食べちゃったの? 早いねー、あーちゃん。僕はまだ残っているのに」

遼平はまだ舐め終わっていないのに、まだ十分も経っていない。どれだけ食べるのが早いんだ。

「飴は噛んだ方が美味しいんだよ」

 どこかで聞いたことのあるセリフだ。いや、まさか。


「次はむっちゃんを押してあげるね」

 あーちゃんは俺の後ろに立ち、背中を押し始めた。ブランコに乗ったのは何年振りなのだろう。

 今乗っているけども、小学生以来だ。今は小学生だけれども。


「わーい。僕も押すー」

 と言い、遼平も俺の背中を押し出した。子供とはいえ、二人分の力で押されると大分高くまで行けるんだなぁと感心してしまった。


 さっきは遠くに感じていた空が近い。

 母が俺を呼ぶ声が聞こえたので後ろにいる二人にブランコを止めてもらおうと後ろを振り返ると誰もいなくなっている。

 もしかして置いて行かれたかと前を振り向くと真っ白な風景が見えた。

「青葉君! 看護師さんに目が覚めたって言ってくるからね! あとはよろしくね! 松島さん」

 

 先輩の大きな声が聞こえ、走りながらそのままどこかへと行ってしまった。看護師の単語からきっと病院にでもいるのだろうとゆっくり体を起こすと頭痛がする。

 

 やはりあの時に頭をぶつけたのだろう。手から腕にかけて傷ができているし、脚も痛いから派手に転んだな。大学を少し休んでも良いだろう。


「青葉君、ごめんね」

 松島さんの声がすると右を向くと、彼女が泣きながら謝っていた。

「私も手伝えば良かった。本当にごめんね」

「泣かないでよ。俺がテーブルの荷物を退けてから乗っていればこんな事にはならなかったんだから、謝らないで」


 彼女には気にしないように言ったつもりだが、まだ泣き止んでくれない。どうすれば元気になってくれるかと、ふとカバンにまだ菓子が入っていることを思い出した。

「松島さん、俺のカバンってある?」

 目や鼻からの水分を出しながらカバンを持ってきてくれた彼女にお礼をしつつ、受け取って中に入れていた菓子を差し出した。


「食べて元気出してよ。あーちゃん」

「思い出してくれたの? 。。。。。。むっちゃん」

 飴をあげたら泣き止んでくれるかと思ったが更に泣かせてしまい、タイミング悪く戻ってきた先輩と看護師さんに怒られてしまった。

 幸運なことに骨折はしておらず、二日間で退院した。個人的には大学に行かなくて済むからもっと入院していたかったが、話をしたい人に今から会いに行くことができるから良しとしよう。


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