第6話 【注意:描写有】
翌々日、市から給水車やパンの配給が来ると近所の人から教えてもらい、皆で小学校へ向かった。
昨日までは雪が降っていたのに急に春の暖かさへと変わり、どこか楽しい場所に連れて行ってくれそうな澄んだ空をしているが、地上ではこれからの未来はどこへ向かっているのか分からない人の集まりで、空気が重く息苦しい。
大人同士で話し込んでいる間に遼平を校庭で遊ぼうと誘った。
まだ電気は復活せずゲームでは遊ぶことができないので、体を動かして気分転換をするしかない。
「ブランコが空いているよ、むっちゃん」
「良いね。やろう」
遼平がブランコに座り、俺も隣に座ろうとした時に女の子が目の前に立っていた。
「私とも遊んで」
この町では見かけたことのない子で、鮮やかな赤色のワンピースに細かい装飾の茶色い靴を身に纏っている。
「良いよ。良いよね、りょーちゃん」
「うん! 僕、遼平ー!」
「ありがとう。私は亜香里って名前」
二人がチラッと俺を見た。
「俺は宗之」
「僕はりょーちゃんって呼ばれてるの。こっちはむっちゃんってあだ名だよ!」
遼平は人見知りをしないので、ガンガン話しかける。
「亜香里ちゃんはあーちゃんって呼んでも良い?」
「嬉しい。ありがとう。」
「あーちゃんはここの学校なの?」
「ううん。違うの。一昨日、マコト君が結婚したからここに来たの」
よく聞くと、マコト君というのは母親の弟で、近所にある結婚式場で披露宴をしている最中に巻き込まれてしまったらしい。
今は弟夫婦の家に避難させて貰っていて、いつ帰れるのか分からないということだった。
十年経った現在では、その結婚式場は解体され、空き地になっている。
「せっかく髪の毛もお姫様にして貰ったのに、ぐしゃぐしゃなの」
俺は「あーちゃん、こっち来て」と思わず手を握ってしまった。
彼女をブランコに座らせて後ろに立ち、力一杯背中を押した。魔法使いでもないので彼女を遠くに遠くに押しても何も変わらないのは分かっているが、少しでも元気になって貰いたい。その表情を数秒でも明るくしたい。
「あーちゃんが飛んだー」
遼平は両手を上げてジャンプしながら言った。部室で最後に見たペンギン像のように彼女は浮いている。
「むっちゃん! もう止めてー!」
行ったり来たりしながら叫ばれた。やりすぎてしまったとあっちにこっちにと動いている鎖を追いかけ、両手でブランコを止めた。
彼女は楽しかったと言いながらさっきより乱れてしまったツインテールを直している。
「ごめん。やり過ぎた。それに髪の毛が、、、、、、」
俺の顔が焦っているように見えたのか「大丈夫だよ」と言い、髪ゴムを二つ取ってポケットへと入れた。
解けた髪がライオンの立髪のようになり、彼女が動く度にフワフワしていて可愛い。
「楽しかったから、良いの。何だかお腹空いてきちゃった」
「待ってて、リュックに飴があったはずだ」
「僕にも飴ちょうだい」
遼平にあげた飴は昨日の内に食べ切っていたのかと驚いたが、二人にいくつか渡した。ブランコに座りながら、俺は飴を美味しそうに舐めているあーちゃんと遼平を眺める。
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