夢幻の世界に誘われ
みずきち
モノクロの世界に咲いた紅
モノクロの世界に鮮やかな紅の炎が舞う。
色以外、普段見慣れた街並みに不釣り合いな異形の怪物。
それと相対するのは槍を携えた白髪ロングヘアのスーツ姿の女性。
自分よりも圧倒的に大きい怪物を相手に、一切臆することなく立ち向かい、舞のような動きで翻弄し、反撃を一切くらうことなく槍術と体術でダメージを与えていた。
ここまででも非現実的な光景なのだけれど、さらにスパイスを一つまみと言わんばかりに、その女性は自在に炎を操っている。
槍で与えた傷を焼き、複数の火球を怪物にぶつけ、見ているだけの自分でも、もう勝ち確だと思えてしまうほどに圧倒的だった。
「これで……終わり」
人間とは思えないほどに高く跳躍して怪物の頭の上から一気に槍を突き刺した。
突き刺された怪物は身体の中から一気に炎が吹き出し、そのまま灰となって霧散する。
モノクロの世界に灰と火の粉で彩られた女性の姿に、俺、『雨宮 乃亜(あまみや のあ)』は見惚れてしまっていた。
「……大丈夫ですか?」
槍を振って灰を飛ばした後、その白髪の女性はゆっくりと俺の前まで来て中腰になり安否を尋ねてきた。
「あ、はい。大丈夫……です。えっと、ここは……」
「大丈夫なら話しは後でお願いします。それよりも早くここから出ましょう」
何を考えているかわからない紅い目の女性は俺の無事を確認するとすぐに話を切り上げ、俺に着いてこいと促し歩き始めた。
「え? ちょ、まっ……」
みっともなく尻もちをついていた俺は、置いていかれるわけにはいかないと急いで立ち上がり、その女性の後に続く。
「あの、ここはいったいなんなんですか!? ていうか、さっきの怪物は!? めっちゃ燃えたりとか何がなんだかわかんないんすけど!」
女性の後ろを歩きながら気になっていたことを矢継ぎ早に尋ねる。
普段ならこんなに慌てることはほとんどないのだけれど、こんな非常事態なら話は別だ。
「話は後でと言ったはずです。適正のない人間がここ『夢幻』に居続けると最悪の場合死にますよ」
目を鋭くし、言外に無駄口を叩くなと告げてくる女性の威圧感に口を噤んでしまう。
助けてもらったのはありがたいけど、なんかめっちゃ冷たそうな子で怖いな……。
戦ってる時はちょっと見惚れてたのに……。
「……っ! 避けて!」
「へ? うわっ!」
いきなり強い力で突き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がる俺。
その瞬間、眩い閃光と爆風が俺たちを襲った。
「ヒヒヒ、流石にこれくらいじゃくたばらねぇか」
爆発の衝撃に身悶えていると、人を小馬鹿にするような声が聞こえてきた。
痛みを堪えてその方向を見ると、パンク・ロックをしてそうな見た目の男……らしきモノがニヤニヤと笑いながら空に浮かんでいた。
らしきモノ……と思ったのは、その存在は人型であるものの、普通の人間よりも青白い肌に充血というには赤すぎる目、笑っている口元から見える刃物のように鋭い歯。
それが俺達と同じ人間ではないことを確信させた。
そもそも普通の人間は空に浮かんだりしないし。
ていうか、あの子は……!?
俺を庇ってくれた白髪の子の安否が気になり、彼女がいた方に視線を向ける。
「そんな攻撃で死ぬような人は、私の組織にはいない」
心配して向けた視線の先には、槍を振り回して爆発で生じた煙を吹き飛ばす無傷のあの子の姿があり、俺はホッと安堵のため息を吐いた。
「ヒヒヒ、貧弱な人間どものくせに無駄な力つけやがってよぉ」
「人型の『夢幻魔』(むげんま)……。あなたの目的は彼?」
「ああ、極上の餌を見つけたからなぁ。そんじょそこらの人間の比じゃねぇ心源力(しんげんりょく)。あいつを喰らえば俺様の力も跳ね上がり、この世界だけじゃなく、お前らの世界も俺のモノにできるかもしんねぇからな」
「え? は? 俺? どういうこと?」
二人の視線が俺に向けられる。
言ってる内容はよくわからないが、どうやらあの化け物の目的は俺らしいということは伝わってきた。
もしかして……絶体絶命……というやつでは?
夢幻の世界に誘われ みずきち @taikibul
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