第5話 ニアミスに愕然

 呪いの葉書は処分して、もちろん一切の連絡はしなかった。


 近郊の職場関係のイベントは、なるべく参加を避けて。


 というか、その暇があったら、彼と会うし。


 彼とのお付き合いは順調で、毎日楽しかった。


 付き合いはじめて1年後には婚約、彼のご両親と同居する方向で、結婚に合わせて家を建て替えることになった。


 結婚式に併せて新築の家を披露したいという義両親の意向もあり、実際に結婚したのはさらに2年後。


 とはいえ、休日はお出掛け以外は彼の家に入り浸っていたので。


 彼が仕事の日でも、彼のお母さまとお出掛けしたりしてて、ほぼ通い妻というか、通い嫁。


 おかげで結婚後もスムーズな同居生活だった。


 おおむね幸せな婚約時代。


 一番怖かったのは、付き合ってすらいないあの人から、元カレ面で突撃されるんじゃないかってことだったけど、それもなかった。


 ……と、思ってた。


 


 結婚後、しばらくして。


「そういえば、前に役員やってた人いるじゃん? 同期とか言ってた人。その人とだいぶ前に、研修一緒になってさ」


「へ?」


「一緒に昼飯食べてたら、付き合っていた彼女が突然会ってくれなくなって、っていきなり相談受けたんだよね」


 そうか、職種が一緒だから、業務研修で一緒になる機会があり得たんだ……って、これ、ヤバい?


「相手の名前言わなかったから分かんないけど、なんかすごく落ち込んでてさ」


「ふ、ふーん、そうだったんだ?」


「うん。で、電話が無理なら手紙でも送ってみたら、って話したりして。そのあとは会うことなかったけど」


 手紙……葉書も、手紙の一種、ではある、が。


 というか、あの葉書、きっかけはもしかしてアンタかいっ!


「でさ、今日あっちの地区の人とたまたま会議で一緒でさ、なんか、退職したらしいよ? あの人。知ってた?」


「知らないよ。今は地区が違うし」


「だよな」


 結婚前に、彼の職場と同じ地区に異動になって、1年くらい過ぎていたので、まあ、知らなくて当たり前なんだけど。


 彼は、正直恋愛ごとに疎い性格だし、嘘が下手なので、多分、あの人との関係を疑って話題にしたわけじゃなく、本気で世間話の一環で話したんだと思う。


 というか、疑われる関係、そもそもないからっ!


 いもしない元カレ(違う!)の存在に怯えつつ、何とかその話題から離れて。


 まあ、それからは平穏無事だけど。


 いやぁ、結局、一度も直接「好きです」とか言われなかったのに、なんでこんな風にビクビクしなくちゃいけなかったのやら。


 スパッと関係切りたかったよ、今思うと。


 てか。


 別れる別れない以前に、付き合ってもいないのに。


 そもそもはじまってない関係で、上手でキレイな別れ方って、あるんでしょうか?




 教えて! 有識者!



<おわり>

 




 




 

 

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教えて! キレイな別れ方 清見こうじ @nikoutako

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