人生終わったから転生したいけどなかなか転生出来ない男の話
かめちい🐢
人生終わったから転生したいけどなかなか転生出来ない男の話
「転生したい」
俺は決意した。この世界では死んだ者の魂は、上位世界にいる女神さまが新たな肉体を与え、新しい命として転生させてくれるのだ。俺は昨晩、信用していた親友に裏切られ全財産を失った。もう俺には何も残っていない。家も土地もお金も。そして俺は、これから明日食べるものにも困るような生活を送るくらいなら、死んで新たな命に生まれ変わったほうがいいに違いないと考えたのだ。
しかし転生にはある問題がある。それは自殺をしたものは転生することが出来ないということだ。身勝手な理由で命を粗末にするような奴は、転生させるに値しないと女神さまは思い、自殺者の魂は地獄をさまようのだそうだ。そこで、何とかして誰かの身に降りかかる危機からその人を救い、その過程で死のう。俺はそう決意した。
ナイフを持った通り魔よ、暴走する馬車よ、なんでもきやがれ。それか誰でもいい、助けを俺に求める人よ現れよ。俺はそう心の中で願いながら、街を歩いた。しかしそう易々と誰かを助けるような場面に出くわすことなどない。通り魔が現れることもなければ暴走した馬車が襲い掛かってくることもなかった。うーん、どうした物か。
「おい貴様、ここで何してる」
その時、町の警備をしている兵士が俺の肩を叩いた。
「いえ、特には…」
「最近この辺りで強盗事件が多発している。その薄汚い服装、どう見ても金に困ってる奴の姿だ。怪しいから逮捕する」
「そんな理不尽な…」
「うるさい」
◇
こうして俺は突然逮捕されることとなり、そのまま牢獄で裁判で判決が出るまでの時間を過ごすこととなった。牢屋の中で食事と寝床は保障されているが、ひたすらに退屈だ。なにせ話し相手もいなければ遊ぶ自由も与えられていないからだ。そんな何もすることのない退屈な日々が続く中、ある日俺は自分の体を鍛えようと決心した。体を鍛えれば、誰かの身に降りかかる危機により早く駆け付けれるに違いない。そう考えたのだ。
◇
数か月後、俺は裁判に掛けられたが証拠不十分ということで無罪となり、釈放されることとなった。牢屋の中で数か月もの間、己の体を鍛え続けた結果として、自分の体は一回り大きくなっていた。俺を捕まえた兵士が牢屋から俺を出すためにやって来て、俺の体を見てこう言った。
「おいお前、兵士にならないか?」
「え?」
「お前のその体、兵士に向いてるよ。無実の罪でお前を捕まえてしまったからお前へのお詫びとして俺が推薦状を書いてやるからそれをもって兵士長の所に行くと言い」
こうして俺は兵士になった。兵士になった時は、きっと危険な場所に赴くことになるはずだから転生したい俺にとってこの上ない好機だ。そう思ったが、いざ兵士になると、毎日町の見回りをしたり門兵として1日中突っ立ったりと、平和な日々が続いた。給料ももらえ、いつしか俺は平穏な暮らしを手にしていた。
「あの…すいません兵士さん。これ…あなたのですよね?」
ある日、俺はいつものように平和な街をぶらぶらと”見回り”していると一人の美しい女性に声をかけられた。どうやら俺の落としたハンカチを拾ってくれたらしい。
「はい…ありがとうございます…その…」
「私の名前はエリーです。兵隊さん」
そう言ってその美しい女性は、俺が人生で初めて見るような美しい笑顔を向けた。
◇
エリーという女性は、その後、町で”見回り”をしている俺によく声をかけてくれるようになった。そして俺はエリーの屈託のない笑顔にいつしか惚れてしまい、ある日いつものように見回り中に声をかけてくれた彼女を食事に誘った。返ってきた返事は、
「喜んで」
だった。
◇
「まさか食事に誘っていただけるなんて嬉しいです」
エリーとの食事の時間はゆっくりと流れた。そして俺はエリーと食事をしているときに気が付いた。俺はこれまで「転生したい」「何とかして死にたい」そう思って生きてきた。俺には何もなかったからだ。でも今は違う。俺はこの女に惚れたのだ。彼女に告白して、もし彼女と付き合うようなことになれば、もう「転生したい」なんて思うのはやめよう。これからは”死ぬため”に生きるのではなくて”生きるため”に生きよう。俺はそう決意した。
「なあエリー。俺はお前が好きだ。もしお前が良ければ、俺と一緒になってほしい」
俺はエリーの小さな手を取り、彼女にそう告げた。エリーは美しい笑顔を浮かべ、「うん」と頷いた。
その時だった。遠くから悲鳴のような大きな声が聞こえたかと思いきや、一人の女性と、それを追いかける大柄の男がこっちの方に向かってきた。
「通り魔よー!誰か助けてー!」
通り魔に追われる女性の助けを求める声が空に響き渡る。通り魔を捕まえるか?しかし、もししくじったら俺は死んでしまう…死にたくない…どうする!!!!
人生終わったから転生したいけどなかなか転生出来ない男の話 かめちい🐢 @kametarou806
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