バレンタインデーの勘違い
かめちい🐢
バレンタインデーの勘違い
「明日!僕にチョコをください!」
バレンタインデーの前日。2/13日。僕はクラスで隣の席に座っている女の子、
そんな有栖さんと偶然にも隣の席同士ということで最低限の会話をする関係にあり、彼女の美しい姿に魅了されていた僕は、近づくバレンタインデーを前にクラス中に蔓延る『バレンタインムード』のような物に押されるような形で、彼女に明日自分にチョコを渡してほしいという風に言ってしまったのだ。
「いいわよ。でも、勘違いしないでよね」
有栖さんは僕のその言葉を受けて一瞬目を丸くしたような表情を見せたが、すぐいつもの落ち着いた彼女の表情に戻り僕にそう告げた。
「ほんと!?ありがとう!」
僕はどんな形であれ、彼女からチョコをもらえるということに舞い上がってしまい、思わず彼女の手を取ってしまった。不意に僕に手を取られた有栖さんが「あっ…」と驚いたような声を漏らしたことに気がつき、僕は恥ずかしい気持ちになってゆっくりと手を引っ込めた。
◇
翌日。ついにやってきた2/14日。バレンタインデー。僕はいつ有栖さんからバレンタインのチョコをもらえるその時が来るのかと落ち着かない気分でその日を過ごしていた。しかし朝僕の隣の席に有栖さんが座り、お互いに挨拶を交わしたときも、お昼休みに二人で並んで静かにお弁当を食べたときも、有栖さんが僕にチョコを手渡すときは訪れず、もうすぐ下校の時間を迎えようとしている。今日1日、有栖さんはどこか僕にそっけない態度を取っていたような気がした。朝挨拶を交わしたときもなんか挨拶がぎこちなかったし、授業のペアワークに二人で取り組んだ時も、いつもより彼女の口数が少なかった。そして下校のホームルームの前、クラスの女子が、有栖さんが同じバレー部に所属している先輩にチョコを渡していたという噂話をしていたのを耳にし、僕の舞い上がった気分が地の底にまで落ち込みかけたその時、有栖さんが僕の肩を軽くと叩いた。
「この後…君にチョコ渡したいんだけど…誰かに見られたら恥ずかしいから、今日途中まで私と一緒に帰らない?今日、部活お休みだから」
「え?うん…わかった」
◇
帰り道、細い歩道を僕は有栖さんの後をついて行くように歩いて行った。僕にとっては本来の帰り道を遠回りしている形になるのだが、そんなことはあまり気にはならなかった。有栖さんの後ろを黙って着いて行き、人目のつかない小さな路地に差し掛かった時、長く美しい髪を揺らしながら、僕の目の前を歩く有栖さんの足が止まった。有栖さんは手持ちカバンの中から手のひらより少し大きいくらいの小さな袋を取り出し、僕の前に差し出した。
「はい、これ、約束のチョコね」
「ありがとう」
僕は彼女の差し出した袋を受け取ると、彼女に笑顔でそう伝えた。
「その…昨日も言ったけど、勘違いしないでよね」
そう言って美しい瞳で僕を見つめる彼女を見て、僕はゆっくりと頷いた。きっと彼女は本命で別の男子にチョコを渡しているのだろう。
「わかってるよ。だけど例え義理でも、僕は有栖さんからチョコがもらえただけでとても嬉しいよ。ありがとう」
しかし僕が彼女にそう伝えると、有栖さんは少し鋭い視線で僕を見たと思いきや、僕に背を向け、
「だから勘違いしないでって言ってるじゃない。バカ」
そう言い残し、足早に去っていった。家に帰り、有栖さんから渡された袋を開けると、中には彼女の手作りのチョコレートと、僕宛のラブレターが入っていた。
バレンタインデーの勘違い かめちい🐢 @kametarou806
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます