第4話 民間療法

 孫はやっと地上に降り立った。


 頭、顔、手に集中攻撃を受けていた。


「洋ちゃん。小便つけてやろうか」


 隆は反射的にズボンのジッパーに手をやった。


「いや、隆。渋柿、取ってきて」


 洋一が言うので、隆と修司は渋柿を探しに行った。足の悪い修司が、一生懸命についてきた。なんとか見つけて持って行くと、洋一は石でつぶし始めた。


「これ、つけてやって」


 


 隆と修司は言われるまま、刺されたあとに塗ってやった。


 権蔵爺さんの孫は泣き止んだ。痛みが少し引いてきたようだった。


 蜂に刺されるのは初めての体験だったのだろう。顔は青ざめ、ショックが尾を引いていた。


 


「洋ちゃん。あんなこと、どこで覚えたん?」


 隆からすれば、見事な対応だった。


「勲おっちゃんに聞いたことがあったんや。絶対に役立つ時があるやろって」


 息子の修司でさえ教えられていなかった治療法だった。隆と修司には、洋一が一段と頼もしく思えた。


「けど、隆たちが遅いので、ワシも小便かけようかと思うたで」


 洋一でも焦っていたのだ。


 


「小便かけとったら、ワシら、権蔵爺さんに怒られるところやったなあ」


 洋一がふざけながら、左手をズボンの前に、腰を振った。


「洋ちゃん! まさか、直接…」


 そんなことをしていたら、権蔵爺さんは一生許してくれなかっただろう。


「隆は、どうやってかけるつもりやったのや」


 隆は半ズボンのポケットを引き出した。


「これをちぎって使えばええやない」


 


 衛生観念などほぼゼロ。子供たちにハンカチを持ち歩く習慣はなかった。


「おお! さすが」


 3人は笑いながら、森を後にした。


 

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続 村の少年探偵・隆 その15 事ども 山谷麻也 @mk1624

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