第4話


助け出された私達は救急隊員によって健康状態のチェックをされた者から次々と原っぱの隅にある水道の所に行き狂った様に水を浴びて汚物を洗い流した。

まさか服を脱ぐわけにも行かないので皆がホースをズボンやシャツの中に突っ込んで水を流し込んでいた。

あれだけ人っ子一人いなかった河川敷にいつの間に野次馬が集まり遠巻きに私達を取り囲んでいた。

水道の順番待ちの間に私達は警察官の事情聴取を受けた。


「それで君はゲロとオシッコとウンコを浴びて勃起(エレクチオン)、いや激しく勃起(スーパー・エレクチオン)して女の子のお尻に股間を押し付けてオシッコしたと…」


「違いますよお巡りさん、女の子のお尻を押し付けられて勃起(エレクチオン)したらゲロとオシッコとウンコを浴びてオシッコ漏れちゃったんですよ」


私が反論すると中年の警官はうんうんと頷きながらメモをとった。


「そうだよなぁ~ゲロとオシッコとウンコ浴びて勃起(エレクチオン)したら変態だもんな~」


「順番ちがうとまるで意味が違っちゃいますよ」


「そうだよなぁ~!

順番違うとまるで変態だよな~!

アハハ」


私達はそんな不毛なやり取りの後で名前と住所を控えられてからもしかしたら電話ボックスの清掃代を請求されるかもと告げられて二度とバカな真似をしないようにと説教を受けたが、思ったよりも激しい口調で無く、なんとなく私達に係わり合いになりたくない感じの対応を受けた。

そして病院に行く必要が無く、事件性が無いと言う事と私達が車で来ていてすぐ近くに停めていると言う事で放免され、警察と救急と消防は引き上げた。

野次馬も散ってゆくなか私達が身体を洗っていると近くに住んでいると言うオジサンが古いタオルを何枚か持ってきてくれた。

私達がお礼と電話ボックスを汚したお詫びを言うとオジサンはいやいやと手を振ってタバコに火を点けた。


「いや~この電話ボックスはこんな…まぁここまでじゃないけどこんな事がよく起きるんだよ」

「え?」

「俺も親父に聞いたんだけど、昔、もう百年近く前にあの電話ボックスがある辺りに肥溜めがあってね~7歳位の女の子が二人、肥溜めにはまって死んじゃったんだよね~」

「…………え?」

「それであの電話ボックスが出来てから酔っ払いがあの中でウンコ漏らしたりとか、ある日ゲロまみれになってたりとか…まぁ汚物がらみの事件や事故がよく起きるんだよな~あ、タオル持ってって構わないからね、それじゃ」


私達は去って行くオジサンの後ろ姿を見送り、沈黙した。


「…なぁ…7歳位の女の子二人って…」


ショージが呟くのをシオリがきつい口調で遮った。


「ちょっとショージ!

なにつまんない事を言ってんのよ!

さっき通り過ぎた女の子達の事を言ってるの?

はぁ~!

やっぱりバカね~!

幽霊がこんな真っ昼間から出るわけないでしょ~!」


水道で流したノリコの髪の臭いを嗅いでゲロやウンコの臭いが残っていないか確認していたアツコも顔を上げてショージを非難した。


「そうよそうよ~!

あの二人はとても幽霊なんかに見えなかったじゃない!

それに、肥溜めに落ちて死んだ女の子が地縛霊になって人々をウンコまみれにするなんて話、ナンセンスだわ!」


皆がせきを切った様に口々にそんな事有り得ないと言った。

私もそう言いながら皆の顔を見回したがどの瞳にも不安の影がさしていた。

私達は再び沈黙し、水道で汚物を洗い流した。

秋の風が冷たく感じたが、今ここで徹底的に汚物を洗い流そうと服をびしゃびしゃにさせながら私達は水を浴び続けた。


「もうこれくらいで良いだろ。

早く家に帰って風呂に入ろうよ」


ブッチョの声に皆が頷き、濡れた靴をガポガポ言わせながら原っぱの近くに置いてある車に向かった。


「あ!」


歩きながら電話ボックスを振り返ったノリコが声を上げたので私達は電話ボックスを振り返った。

汚物まみれで中が見えなくなった電話ボックスの傍らに先程私達を見て笑いながら通り過ぎた二人の女の子が立っていたのが一瞬見えた気がした。


「…なによ~!

誰もいないじゃない」


アツコが言うと皆はそうだよ誰も居ないじゃないか、そうそう誰も居ないよと言いながら足早に車に向かった。

私達はシンタローのスカイライン・ジャパンと私のワーゲン・ゴルフの2台で来ていたが、女子達はワーゲン・ゴルフに乗りたがった。

サンルーフが付いているのでそこから余計に臭いが逃げるだろうと考えたのだろう。

こうしてシンタローのジャパンに私以外のバカファイブメンバー、ワーゲン・ゴルフに私と女子達が乗り込み、窓とサンルーフを全開で家路についた。

誰も話さず車内は静かだった。

女子達を次々に家の前で下ろし、私のゴルフには助手席にシオリがいるだけになった。

帰り道が同じ方向のトロがゴルフの後席に乗り込み、シンタローのジャパンと別れ、私は次に近いトロの家に向かった。


シオリはさすがに疲れきったのかグッスリと寝ていた。

車内はFENが虚しく流れていた。


「…全く災難だったな」


私はそういうとタバコに火を点けた。


「ああ、全く酷い日だったぜ」


トロもタバコに火を点けながらため息を漏らした。


(それにしてもトロのウンコは苦かったな…やはり奴は地球人じゃなくてアルファ・ケンタウルス星系から地球侵略の尖兵として派遣されたゲリニガ星人のコマンドに違いない。地球はやはり異星人が入り込んでいて侵略の危機にたたされているのか…)


「エリ…さっきから誤解してるけど俺はゲリニガ星人じゃないぜ、俺はゲロニガジャー星人だぜ」


いきなりトロが言い、私の思考が凍りついた。


「え…トロ、今なんて…」


トロがタバコの煙を燻らせながらニヤリとした。


「なぁ、エリ。

俺はゲリニガ星人じゃなくてゲロニガジャー星人の侵略コマンドだぜ。

今お前の思考を読んだけど名前が間違ってるぜ」


「…」


「安心しろよ。

ゲロニガジャー星の侵略軍団の本隊が地球に到達するのは地球時間で西暦2020年の秋、10月3日でまだまだ先だぜ。

地球人は皆奴隷か食肉用の家畜になってもらうがエリ達は良い奴だから何とか助けてやるぜ」


「トロ…お前」


私がひきつった顔になるとトロが急に笑い出した。


「わはは!

エリは時々考えてる事を無意識に口に出して話してるぜ~!

それが聞こえたから冗談を言ったぜ~!

見事に引っかかったぜ~!」


「なんだよ~!

すげえビビったよ~!」


私とトロは暫く笑いあい、トロの家の前で奴を下ろし、シオリの家に向かった。


「怖い!」


突然シオリが悲鳴を上げたので私はびっくりした。


「どうしたのシオリちゃん?

怖い夢でも見た?」


「違う!私さっきから目が覚めていた!

エリくんは独り言なんか一言も言って無かったよ~!」


「え?

それじゃあ…」


「トロ君は絶対本当にゲロニガジャー星人の侵略コマンドよ!」


ハンドルを握る手が小刻みに震えた。

私は泣きじゃくるシオリをこの事は内緒だと言い含めて家の前で下ろした。





さて、あの電話ボックスは本当に肥溜めに落ちて死んだ二人の少女に呪われているのか、そしてトロは本当にゲロニガジャー星人の侵略コマンドで西暦2020年10月3日に人類は異星人侵略の危機に見舞われるのか私には判らないけど、以後私は原っぱの電話ボックスには二度と入らない様に気をつけているし、トロが死ぬほど嫌いな、まるで吸血鬼が聖水を怖がるかの様に忌み嫌うドクター・ペッパーを大量にストックしてゲロニガジャー星人の侵略に備えている。



そして私は女性から耳元で『電話ボックス』と言われると股間が超勃起(スーパー・エレクチオン)状態になり、真空飛び膝下痢や後ろ廻し下痢などの必殺技を使えなくなると言う弱点が出来てしまったが…ふん、ヒーローには弱点があるものさ。



皆さん、西暦2020年10月3日に備えてドクター・ペッパーを備蓄していて下さい。


本当に侵略が始まってからでは遅いのです。


また、良い子の皆さんは電話ボックスに何人入れるかなんて危ない事をしてはいけ………まぁ、やって見たらやって見たら~!あはははは!

あの地獄を君達も味わってみたら良いのじぁ~!








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チバマツドウンゲロモラシマロ事件 とみき ウィズ @tomiki

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