第3話

電話ボックス内の皆が息を飲んだ。


「救急隊です~!どうしましたか~?」


ゲロとウンコがこびりついてしかも熱気と湿気でくもった電話ボックスのガラス越しに赤い消防車と白い救急車が停まっているのが見えた。

途端にまた、皆が口々に叫び始めた。


「出れなくなっちゃったんです~!」

「出して下さい~!でないと皆が変態になっちゃうんです~!」

「このままだと死にます~!」

「出して下さい~!ウンコ漏らしちゃったんです~!」

「お母さ~ん!」

「オシッコ漏らしました~!」

「ゲロを吐いちゃいました~!」

「ゲロとウンコ被っちゃいました~!」

「助けて下さ~い!」

「オシッコ漏れたら気持ち良かったんです~!」

「出して~!ここから出して~!」

「ああああ~!お母さ~ん!」

「変態になって死にます~!」

「早く出して~!」

「出してくれ~!」

「出して~!」

「出して~!」

「ちょっとちょっと!落ち着いて下さい~!

今出してあげますから~!」


そう言うと救急隊員が電話ボックスの扉に手を掛けて開けようと力を込め、数センチほど扉が開いた。

外の新鮮な空気がその隙間から入り、私達は生き返った思いがした。

が、扉はそれ以上から先はびくとも動かなかった。

救急隊員がその隙間から顔を中に入れた途端にグァ~!と声を上げると顔を押さえて数歩退き、倒れて転げまわった。

ゲロとウンコがこびりついて熱気と湿気でくもった電話ボックスのガラス越しに倒れた救急隊員の周りを数人の救急隊員が近寄って救急隊員を摑んで引きずりながら後退するのが見えた。


「凄い中は臭いです~!死ぬほど凄いです~!」

「マスク!酸素マスク持って来い!」

「ここからでも臭いが凄いな~!」

「信じられん、一体何が…」

「とにかく早く出さないと…」

「手袋も必要です!目にも来るからゴーグルも!」

「中がよく見えないがあれは…」

「あれはウンコとゲロです!ウンコとゲロがこびりついてるんです!」

「ひぃい!それでこの臭いがぁ!」

「ゴーグルどころか科学防護服も…」


救急隊員達がこちらを見ながら会話しているのが切れ切れに聴こえてきた。

そして彼らは消防車に行き、酸素マスクやゴーグルや防火服等の装備を着け始めた。


「やっと救助隊が来たぜ~!」


シンタローが能天気な声を上げた。

私は普段シンタローの能天気な声を嫌悪していたが、この時は助かる希望が出たせいか上機嫌で頷いた。


「あれかっこいいなぁ~!やっぱレスキュー?レスキュー?」


ショージが救急隊員の方に顔をねじむけてゲロでこびりついた顔をほころばせた。


「サンダーバードだな~!」


ブッチョがとろけた顔で呟いた。


「ファ~イブ!」


トロが言い、私達バカファイブメンバーがチャーン!と唱和した。


「フォ~!」と私、「チャーン!」とバカファイブメンバー。


「スリ~!」とブッチョ、「チャーン!」とバカファイブメンバー。


「ツ~!」とシンタロー、「チャーン!」とバカファイブメンバー。


「ワ~ン!」とショージ、「チャーン!」とバカファイブメンバー。


「ゲ~ロ!」とシンタローが言い私達バカファイブメンバーが大笑いし、女子達もクスクス笑った。


救助の準備をしていた救急隊員達が手を止めて私達を見ていた。

そんな中でシオリだけが顔を真っ赤にして口をつぐみ、プルプルと頬を震わせていた。

シオリのただならぬ雰囲気に私達は笑うのを止めて彼女を見つめた。

私達は不安に駆られた。

ひょっとして怒っているのだろうか?

きっと怒っているんじゃないかな?

やっぱ怒っているんじゃないかな?

私達は緊張して彼女を見つめていた。

シオリがいきなり吹き出して爆笑した。

私達がほっとして笑った途端にシオリがえらい大声で怒鳴り始めた。


「も~!あんたたちバカじゃないのバカじゃないのバカじゃないの!流石に噂のバカファイブよね!あんたたちの脳味噌全部集めてもミスジマイマイ一匹分しか無いですよ!ええ!ええ!ミスジマイマイ一匹分!」

「な、ななななななんだよミスジマイマイって」


ショージがシオリちゃんの剣幕におののきながらも尋ねた。


「ミスジマイマイってカタツムリの一種よ!そんなことも判らないの?もうバカバカバカバカ!バカのウンコ浴びてバカのオシッコ浴びてゲロ吐いてこのままじゃきっとバカが感染して私も明日の今頃はバカの仲間入りよ~!きぃ~!きっと明日は23+15も分からなくなるわ!バカがウツル!バカがウツル~!きぃ~!」



シオリは極度のストレスでかなり己れを見失い、ヒステリー状態になってしまった。


「な、なななななんだよ~23+15なんて俺だって解るよ~」


よりによってバカファイブメンバー中で一番暗算能力が低いショージが止せば良いのにシオリに反論してしまった。

ゲロとウンコで顔を茶色と黄色のまだらに染めたシオリちゃんは顔を拭こうとしたが両手が隣の人間に挟まれて動かないのでブッチョの肩に顔を擦り付けたが返ってウンコとゲロが混ざり合ってなんとも言えない下品な色合いになって、まるでパプアニューギニアの首狩り族が顔に不気味な染料を塗りたくり部族あげての戦争に臨む様な凄惨な顔をひきつらせて喚き散らした。


「ほぇ~!判る!アンタ判るんだ~!

ほぇ~!ほぇほぇ~!

こりゃあ驚いた!

じゃあ答えなさいよ!

早く答えなさいよ!

早く答えなさいよこのバカバカバカバカバカバカバカバカ~!」


よりによってバカファイブメンバーの中で一番暗算能力が低いショージがシオリちゃんに問い詰められて悔しさに頬をプルプルひきつらせた。


「こ、答えてやるよ~!

え~と23+15だろ~!

2、3、+、1、5…………え~と……」


パプアニューギニア首狩り族戦士になったシオリちゃんが勝ち誇った笑顔を浮かべた。

身体が自由ならきっと槍と盾を持って飛び跳ねて踊ったに違いない。


「ほほほ!お~ほっほっほ~!

やっぱりバカよバカよバカよ!

早く出たいわ!

出して出して~!

バカがうつる~!」

「チキショー~!

人の事をバカって言う奴の方がバカなんだぞ~!」


ショージが悔し涙を両目から吹き出して叫んだ。


「はい!それまで!救助しますから皆さん静かに!私の指示に従って下さい~!」


くぐもった声が聞こえた。

電話ボックスの隙間からヘルメットと酸素マスクとゴーグルを付けた救助隊員が覗き込んでいる。


「あ~!

早く助けて下さい!

バカがうつる!

バカになってしまいます……すみません、23+15はいくつですか?」


シオリがじっと救急隊員の顔を凝視して叫ぶと救助隊員がゴーグル越しに一瞬眉をひそめて答えた。


「え?…23+15は…36です!」


電話ボックス中が一瞬凍りつき、アツコが怯えた声を上げた。


「ひぃ~!バババ、バカがうつってる~!」


アツコの言葉に電話ボックスの女子に新たなパニックが発生した。

ユカリがキイィ~!と声を上げて頭を振り回した。


「ちょっとこの中を覗き込んだだけでバカがうつるなんて~!

怖い!私!怖いわぁ~!」


ユカリのパニックがノリコに伝染し、彼女は美しい顔を歪めて叫んだ。


「うつるのはバカだけじゃないわ!

きっと変態もうつるのよ!

皆、トロを見たでしょ~!

こんな時にチンコを勃たせちゃうのよ!

勃ったチンコをアツコの頭に擦り付けたのよ~!」


アツコが狂ったように上に出ている片方の手で頭をはたいた。


「私の頭にトロのチンコが直接当たってしまった!

きっと脳の奥深くまで変態が染み込んでいるわぁ!

変態よ!変態よ!変態頭になっちゃうよ~!」


「いや、直接チンコが当たった訳じゃないよ。

トロはズボン履いてたし…」


私が言うとアツコがキッとした顔を私にねじ曲げた。


「ズボン越しにだって変態はうつるわよ!

エリだって固いチンコ私のケツ(確かにケツと言った)に押し付けてオシッコしたでしょ~!

私の頭とケツ(確かにケツと言ってる)は変態になっちゃっ…ひぃいいい!

ブッチョもチンコを固くしてるよ~!

変態よ!変態よ!変態よ!皆さん変態よ~!」



極限状態のストレスから彼女達の頭の中であらぬ変態妄想が次々と湧き出て脳内を駆け巡り、大脳が沸騰した状態になってしまったらしい。

彼女達は口々に変態よ!バカよ!うつる!と叫びながら地団駄を踏んだ。


「ちょっとあまり身体を動かすなよ~!

おっぱい押し付けるなよ~!

ますますチンコが反応するから~!」


シオリの放漫な胸が身体に押し付けられたブッチョが困ったような、それでいて嬉しそうな悲鳴をあげた。


シオリはブッチョのチノパンの股間のふくらみを見て絶叫した。


「いや~!

変態~!」


女子達が新たに悲鳴をあげた。


「黙れ黙れ黙れ!」


天井からブッチョにウンコを擦り付けながらズルズルとずれ落ちてきて私とブッチョの肩の間にはまりこんだトロが大声で怒鳴った。


「馬鹿で変態になってここで死にたくないなら黙って救助隊員の指示に従うんだ!

わかったか!」


脱糞と失禁をしてゲロを浴びて未だに股間を膨らませてカエルの様な感じで足を広げて私とブッチョの間に挟まれて宙に浮いているトロだったがその声は頼もしかった。


女子達は口を閉じた。

人間のウンコの苦さから遥かにかけ離れた宇宙人のウンコの苦さを持つトロだったが、この時のトロの言葉には有無を言わさぬ説得力を持っていた。


「お願いします。

早く助けて下さい」


静まった電話ボックスの中でトロが救急隊員に言った。


「今助けるから頑張って下さい」


救急隊員はそういうと電話ボックスの扉から頭を突っ込んで内部を観察した。


「このドアを壊して何とか出れる様に出来ないんですか?」


シオリが尋ねると救急隊員は電話ボックス内の観察を続けながら答えた。


「これは公共物だからドアを壊すのは最後の手段です…ところでどうやって全員が中に入れたんですか?」


皆が顔を見合わせた。


「一回7人まで入ってギュウギュウに なっちゃったから諦めたんですけど…」


「上下に空間がある事に気が付き…」


「シンタローを床にしゃがませてから一番小柄なトロを皆で頭の上に押し上げて天井に押し付けて…」


「それで最後に一番身体が柔らかいアツコが…彼女、新体操やってるから…しゃがんだ状態でドアの下半分から身体を捻りながら入ったんですが…」


「その間私達はかなり無理に身体を曲げてアツコの身体が入る余地を作って…」


救急隊員は皆が口々に言うのをふむふむと頷きながら電話ボックス内の私達の身体をじろじろと見つめ、時々私達の身体の間に手をいれていた。

救急隊員はトロとアツコちゃんの間に入れた手を引き抜き、腕に着いた未消化の角切りニンジンを指で弾いてから顔と手を引っ込み、電話ボックスの外を一周しながら外から私達を観察した。

私達は暑苦しく悪臭に満ちた電話ボックス内から救急隊員を目で追った。

電話ボックスの外周を廻った救急隊員は再び少し開けたドアから頭を入れた。


「何とかドアを壊さずに出れるかも知れません。

皆さんこれから私の指示に従って身体を動かしてもらいますよ」

「は~い」

「それでは手始めにえ~と、君がトロ君?

そうそう、彼の身体をまた天井まで持ち上げて下さい」


こうして電話ボックスから脱出するためのややこしい人間パズルが始まった。

その間、新たにショージが失禁し、私とトロが嘔吐した。

私とブッチョの手を借りながらトロは再び電話ボックスの天井に押し上げられた。

トロのバミューダパンツからオシッコとウンコが入り交じった液体がボタボタと私達の顔や腕に垂れ落ちた。

ここでアツコが嘔吐し向かいに背を向けて立っているショージの背中がゲロまみれになった。

ショージはゲロを背中に浴びて、ああう~!と妙な声を上げて再び大量の尿をシンタローの身体に浴びせた。

何とか苦労して再びトロが天井に張り付いた。

次に救急隊員はトロの身体を天井の片側に寄せてアツコを皆で持ち上げて天井に持ち上げる様に指示をした。

私達はゲロとオシッコとウンコまみれで汗だくなアツコの身体を掴んで上に押し上げていった。

ズルズルとアツコの身体を上にずらしてゆく途中、シオリが身体をプルプルと震わせて失禁し、彼女のジーパンの股間を濡らした。


「私だって我慢してたんだから…」


シオリちゃんがか細い声で弁解したが誰もそれを責める事は出来なかった。


「な、連鎖するんだよ~」


ブッチョが嬉しそうに呟いた。


「これ以上の連鎖はごめんだぜ…ウッグボッオ゛エ゛エ゛エ゛~!」


天井に押し付けられ、更に片側に寄せられたトロがまたもや盛大に嘔吐し、電話ボックス内に新たにフレッシュなゲロが降り注ぎ、私も耐えきれずにまた嘔吐して途中まで身体が持ち上がったアツコちゃんのお尻にゲロをぶちまけ、アツコちゃんがヌア゛ア゛~!とエロチックな声を上げた。

ゴーグル越しに救急隊員のひきつった顔が見えた。

アツコちゃんの身体はそれ以上、うえに上がらずゲロまみれのお尻が私の顔に押し付けられた。

私は吐いたばかりの自分のゲロとアツコちゃんのお尻を顔にこすり付けられ呼吸が苦しくなってアツコのお尻を二度タップしたが格闘技の試合ではないためますますアツコのお尻が容赦なく顔に押し付けられた。

しかし、救急隊員の指示通りにしたら電話ボックス内に少し余分な空間が生まれ、電話ボックスの扉が先ほどよりも広く開いた。


「え~、アツコさんだっけ?

その状態で身体を捻れる?

私の方にお腹を向けて捻れます?」

「はい、やってみます」


無理な姿勢で苦しげな声になったアツコが答えた。

私とブッチョとシオリ、ノリコが手を貸してアツコの身体を回転させようとした。

徐々にアツコの身体が捻れていった。

足が私の頭に引っかかり私とブッチョが手を貸してアツコの足を開かせた。

今度は足を開いたアツコの股間に顔を突っ込むと言う通常では考えられない卑猥極まる状態になり再び股間が激しく硬くなってしまった。

こんな緊急時に汚物まみれの女性の股間を顔に押し付けられて硬くなる節操の欠片も見出だせないゲスの極みのペニピョンを憎たらしく思った。

しかし、私の再びの超勃起(スーパー・エレクチオン)と言う尊い犠牲と引き替えにアツコちゃんの身体は無事に横90度に方向を変えた。

電話ボックスの扉がまた少し開いた。

救急隊員がアツコの頭を支え、もう一人の救急隊員が腕を持って扉の隙間から引っ張りだそうとした。


「よし!頭が出そうだ~!

このまま引っ張るからね!」


救急隊員がアツコの身体を引っ張るとズルズルとアツコちゃんの身体が動き出した。


「あ~!

ちょっと待って下さい~!

胸が!胸が~!」


アツコの悲鳴が聞こえた。

やっと私の顔が彼女の股間から離れて視界が開けたらアツコの胸が扉に引っかかり、ブラがジャーっと上にずれていた。


「生きるか死ぬかなんだから我慢して!」


救急隊員はそう言うとアツコの身体を引っ張り続けた。

濡れた薄いTシャツ越しに扉に引っかかった彼女のブラジャーが上にずれ上がり、おっぱおっぱおっおっぱいがムニュ~と下からはみ出ている超卑猥な光景に電話ボックス内の男子全員が間違いなく勃起してしまったに違いない。

いいや確実に私だけでなく全員が勃起したに決まってる、男子が全員アツコの胸の動きに合わせてンフ~!と唸った。

なにせバカファイブだから命の危険があってもエロイ事は見逃さないのだ。


「いや~!」


アツコが悲鳴を上げながら電話ボックスから引きずり出された。

アツコは電話ボックスから勢いよく引きずり出され、まるで生まれたばかりの子牛の様に濡れそぼり湯気をたてて地面に力無く横たわった。


「おい!

パトカーまで来てるぜ~!

まるで事件みたいだな~!」


シンタローが能天気な声で言った。


「…もはやこれは事件だと思うよ…」


ノリコが答え、皆が頷いた。

アツコが出れたおかげで余分な空間が出来、私達は次々と悪夢の電話ボックスから出る事ができた。

遂に我々は悪夢の汚物電話ボックスから生還したのだ。











続く

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