第2話

シンタローの言葉に電話ボックス内の時間が止まった。


遂に来るものが来たと私は観念して目をつぶった。

その瞬間、ブリッ、プピ~!、ブリッブリッ、プ~!と何やらみずみずしい破裂音が聞こえた。

全員が目を閉じ身を固くし、閉所近距離脱糞の衝撃に備えたが、しばしの静寂の後、シンタローのほっとした声が聞こえてきた。


「あ~!少し楽になった~!

皆、大丈夫だ。

 実は出てない、まだ頑張れるよ~」


皆が少し安心して身体の力が抜けた。

しかし、一瞬遅れてシンタローの屁の臭いが電話ボックス内に立ち込めた。

ただでさえ人がギュウギュウに詰まった電話ボックス内はそろそろ汗と体臭の臭いで耐え難くなりつつある所にシンタローの屁の臭いが加わり、地獄の一丁目に差し掛かっていた。


「ちょっ、臭~い!」

「吐きそ~う!」

「下水道みたいな臭い~!」

「ちょっとあなた、何食べてるの?普段何食べてるのよ~!」

「きっとはらわたが腐りきった下種野朗なのよ~!」

「もう我慢できないよ~!」

「吐くな~!

誰も吐いてはならん!

喋るとますます息苦しくなるぞ!」


女子が口々にうめき声を上げ、ブッチョがそれを制したが、皆の口から漏れる泣き言は止められなかった。

その時天井に張り付き女子達からの変態変態!の罵倒に黙って耐えていたトロが叫んだ。


「おい聞け!サイレン!

 サイレンが聴こえ……ぐあ!あひぃいいい~!」


皆がトロの言葉に耳をすましたと同時に微かにサイレンの音が遠くから聴こえて来たと同時にトロがくぐもった悲鳴をあげると同時に腰をガクガク動かすと同時に激しい爆発音の様な音がしてトロはトロはトロはトロはトロはよりによって私の顔面20センチ前でトロはトロはよりによってトロはトロの野郎は





激しく脱糞し……………………ひぃあああああああああああああああ!




…………んぁあああああああああああああああああああ~!




うんちうんちうんち!ああああああああああああ~!  




私の目の前にはアツコの頭でチンコを支えて持ち上げられた形で宙に浮いているトロがいて、トロはこちらに尻を向け、更に足を開いてガラスに突っ張っていた。

従って並んで立っていた私とブッチョの二人はもしもトロが全裸であったなら私達の顔面直前にトロの肛門その下にキャン玉袋が垂れ下がりその先にチンコの先が見えている状態であった。

更に今はトロのチンコとキャン玉袋が私に背を向けて密着しているアツコの頭に乗ってチンコちょんまげ状態であった。

恐らくトロが履いていたバミューダパンツの中ではトロのチンコがアツコの頭頂部に押されてトロの腹にくっついている状態であろう。

まず、トロの肛門から爆発音と言うか、強力な破裂音が聴こえて、パンツとバミューダパンツの布地を強引に通過したトロの直腸内の糞便とガスが私とブッチョの顔面を襲った。

その時、私にはトロの肛門付近から何かが爆発して茶色の霧が立ち上った様に見え、そして数瞬後、霧状のトロの糞便がこちらに…私の顔面めがけて飛んで来た。

不覚にも私はその瞬間アッ!と声を上げてしまい。トロの大便シャワーが私の口に飛び込んだのだ

苦い苦いニガイニガイニガイ!

ウンコがこんなにも苦い物とは知らなかった。




高山くんごめんね~!



小学3年生の時に仲良しの高山くんが意地悪な上級生に無理矢理犬のウンコを食べさせられた時に僕は怖くなって逃げてしまったんだ。


でも、でもね、僕は先生に知らせようと職員室に走ったんだよ。


一生懸命に走ったんだよ。


でも職員室は職員会議で入れなかったんだよ。


どうしたら良いんだろうと僕が職員室のドアの前に立っていたらあのおっかないガッパギドラゴジラが急にドアを開けて、どうしたんだ~!今は会議中だぞ~!と叫んだから怖くなって家まで走って帰っちゃったんだよ。


ああそうだよ!僕は!僕はウンコを食べさせられている高山くんを見捨てて家まで逃げ帰ったのさ!


家の玄関で泣いていた僕を見てお母さんが何があったか聞いたから話したらお母さんは高山くんかわいそうねお前は絶対に人にウンコを食べさせる人になっちゃ駄目だよって頭を撫でてくれたんだ。


うん、僕は絶対に人にウンコを食べさせる人にはならないよ絶対にならないよだってウンコって僕が小学3年生に戻っちゃうくらいに苦いんだもの。


僕はお母さんに誓ったよ。


ウンコは死んじまうほど苦いよ。


高山くんごめんね。


僕は絶対に人にウンコを食べさせる人にはならないよ。




『僕は何があっても絶対に人にウンコを食べさせる人にはなりませぬ』



〈とみき人生宣言第14番〉




大便のあまりの苦さに一瞬私は小学3年生にタイムスリップしてしまった。

しかし、苦い。

そのエグさとほのかな甘みを伴った非人間的な苦さは人体から出てきたとはとても思えない何かの化学物質、人体に有害な化学物質の様な感じがした、とても地球上に存在しない、いや、地球人の身体から生成されたとは思えないエグさ苦さを持つ悪意に満ちた物体だった。


私は確信した。


トロは地球人ではない。

地球から遥か彼方のアルファ・ケンタウルス星系から地球侵略の尖兵として派遣されたゲリニガ星人のコマンドに違いない。

なに?

ウンコを食べただけで地球人と宇宙人を見分けられるかだって?

ちょっとあんたバカじゃねえのバカじゃねえのバカじゃねえのバカじゃねえのバカじゃねえのバカじゃねえのバカじゃねえのいいやバカに違いない!

そんな事を認めたらCIAに拉致されてネバダ州の秘密基地に監禁されてSEET(シット・イーター・エージェント・トミキ)なんてコードネーム付けられて毎日毎日人間か宇宙人か判らない怪しい奴のウンコを無理矢理食べさせられる事になるじゃんか~!

そんなの嫌に決まってるだろうが!

なんならあんたがやるか?

私の代わりにあんたがやるってかぁ!



『とみきウィズはウンコを食べただけで地球人と宇宙人を見分ける事は出来ません』


〈とみき人生宣言第22番〉




私は口の中の苦い大便を追い出す為に唾を貯めてアツコの後頭部に吐きかけた。

そして更に恐ろしい事態を目撃した。

私が吐き出したトロの大便がアツコの後頭部にベッタリとこびりついたがアツコはそれどころの騒ぎではなかった。

トロのバミューダパンツの布地を突破出来なかった大便が生地をモッコリと押しながら地球の重力に負けて下に移動してアツコの頭に向かってずり落ちて来たのだ。

シオリがアツコに警告の叫びを上げた。


「アツコ!トロ(もはや呼び捨て)のクソ(確かに『クソ』と言った)が頭に~!」


アツコはそれを聞き、先ほど引き抜いた手で頭を庇った。

トロの大便がバミューダパンツの布地越しに、何かの軟体生物の様にアツコの手にのし掛かって来た。


「ひやぁあああああ!アッタカイよ!ヌルッとしてるよ!気持ち悪いよ~!」


更にトロの肛門から遅れて出てきた液体状軟便がアツコの手を茶色く染めて行った。

皆はアツコの惨状に目を見開き悲鳴をあげながらギュウギュウに詰まった電話ボックス内で彼女から遠ざかろうと身を離した。


「ちょっと押すなよ~!グハァアアア~!」


シンタローが断末魔の叫びを上げ、ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリ~!と彼の肛門を押し広げながら大量の大便が外界に激しく飛び出して来た。

新たな脱糞に皆は悲鳴をあげながら地団駄を踏んだ。

そして、脱糞と言えば失禁と言う諺通り、トロがまだ勃起したままのチンコの先端から派手に放尿した。

災難続きのアツコはア゛ア゛ア゛ア゛~!と声をあげながら自分の顔に降りかかるトロの尿を遠ざけようとパンツ越しにトロのチンコをわしづかみにして頭からどけようとしたが、それは結果的に電話ボックス内にトロの尿をシャワーの様に振り撒く事になってしまった。

悲鳴と怒号が充満する中、脱糞と失禁によって脱力したトロの身体がずりずると私とブッチョの方向にずれ落ちてきた。


「な、言った通りだろ?

 連鎖漏らしだよ。

 漏らしは、連鎖するんだ」


ブッチョが何故か至福の表情を浮かべて私に笑顔を向けた。

こいつ絶対サイコパス。

或いはブッチョは既に発狂しているのではないかと思い、私の背筋が凍りついた。


辛うじて私の顔をよけたトロの尻がブッチョの頬に当たり、彼の顔に茶色い筋をつけながら私とブッチョの間にずり落ちていった。

シオリが嘔吐し、ジェット噴射の様に口からゲロを噴き出した。

シオリの怒涛のゲロジェット噴射は後方にずり落ちて行くトロの頬を強力なビンタの様に打ち、飛沫を辺りに飛び散らしながらアツコとその向かいにいたノリコの顔を掃射し更にノリコの後ろに背を向けていたショージの首筋に当たりゲロをショージの服の中に注ぎ込んだ。


「すげぇ~!ゲロがマシンガンみたいだ~!」


脱糞し床に茶色い染みを広げていたシンタローが脱糞と言えば失禁の諺通りにズボンの股間部分を尿で黒々とした染みを広げながら叫び、いつも何かが起こると馬鹿げた笑い声を上げて面白がるショージがア゛ア゛ア゛ア゛ア゛~!と悲鳴をあげながらシオリのゲロの感触に身悶えながらエビぞった。

シオリに続いて隣のユカリも口を手で押さえた一瞬後で手と顔面の間からゲロが飛び出てそのゲロはボフッ!と音をたててユカリの手を押し退けて電話ボックス内に噴き出した。

もはや地獄の汚物パーティー会場と化した電話ボックス内は皆が汚物をかぶり茶色と黄色が混じりあった汚物ゾンビになって身体を揺らし足を踏み鳴らして地獄の亡者のうめき声をあげていた。

私の右手の甲に新たな暖かい何かの液体がかかる感触に気が付くとブッチョもおしっこを我慢していたのか、それとも本格的に発狂したのかモッコリとテントの様に張ったズボンの股間から尿の染みを広げていた。


(うああああ!野郎のウンコは嫌だ野郎のオシッコは嫌だどうせなら女子のゲロのほうがなんぼかマシ!マシマシマシマシマシマシ!あ!ノリコちゃんも吐いてる!俺にかけてくれ!そのゲロを俺にかけてくれ!清めてくれ!俺を清めてくれトロのウンコとブッチョのオシッコで汚れた俺を清めてくれ~!ああ漏れる漏れる実は俺もオシッコ我慢していたんだよねアツコちゃんそんなにお尻を俺のペニピョンに押し付けて上下左右に動かすなよ頼むよ漏れちゃうよもう無理!無理無理無理!あ!アツコちゃん!コイツも漏らしてるオシッコ漏らしてる!じわ~っと俺の股間を濡らしてるじゃん!アッタカイよ~!女子のオシッコ~!ひひひ!もう俺も無理!出る!せめてノリコちゃんにかけたかったな俺のオシッコノリコちゃんにかけたかったなジョッパー!あああ~!気持ち良い~!)




おなごのお尻におしっこジョー!おしっこジョッパー!ああああ~!きもちいい~!ひひひひひひひひ! 




私の事を変態と罵れば良い。

好きなだけ変態と罵れば良い。

ああ、私は変態だ。

もはや立派な変態だ。


今告白するとそれは気持ち良かった。

この極限状態で、いやこの極限状態だからこそ、私の失禁は非常に非常に気持ちよかった。

熱気と湿気で不快指数1000パーセントの狭い電話ボックスにギュウギュウに押し込められてウンコとゲロをかぶりながらも、ずっと我慢していたオシッコを若いオナゴのお尻にペニピョンを押し付けて思いきり排尿する快感はとてつもない物だった。

今までの私の人生の中では一番、いや、これからの人生でも決して味わえない位の快感に身悶える排尿だった。

私は射精に匹敵する、いや射精の快感が1ドッピュンとするならば優に3・8ドッピュン、いやいや4・7ドッピュンに匹敵する快感に思わず後ろからアツコのお尻を抱き寄せて勝手にカクカク動く腰をアツコのお尻に押し付けて長々と失禁した。

今までの人生でセックスも含めてあれだけのエクスタシーを味わった経験は無い。

ズルズルとずり落ちてきたトロも私の横で顔にトロのウンコを擦り付けられたブッチョも、ガラスに張り付いて脱糞と失禁を終えたシンタローもこの非常事態に似合わない何とも至福の表情を浮かべていた。

アツコももしかしたら失禁の快感を感じてたのかも知れない、いや、絶対に快感を感じていたに違いないそうに違いないそうに決まってる。

なぜならばアツコはア゛ア゛ア゛ア゛ア゛~!と声を上げながら私の股間に尻を余計に突き出して私の腰の動きに合わせてお尻を振り、アツコの胸を掴んだ私の手に手を重ねて握りしめていたからだ。

が、人生史上最大の気持ち良い放尿が終わるとまた、私達の意識は地獄の電話ボックスに引き戻された。


「…こんな死に方嫌だよ~!」

「私だって嫌だよ~!」

「俺だって嫌だよ~!」

「こんな死に方嫌じゃ~!」

「ここから出たいよ~!」

「千葉の松戸なんかで死ぬの嫌だよ~!」

「私も千葉で死ぬの嫌だよ~!」

「ここを出たいよ~!」

「私も出たいよ~!」

「俺も出たいよ~!」

「おかぁさ~ん!」

「お味噌なら…」

「うるせぇ!」

「死にたくないよ~!」


皆が口々に叫んでウンコとゲロとオシッコと汗の悪臭にむせながらあらためて泣き出した。

私の頭に、私達の悪夢の死を告げる新聞の見出しが踊った。

『電話ボックス内で9人の若者が死亡!排泄物にまみれ、新たな変態倒錯か?』

嫌だこんな死に方嫌だ新聞に載るのも嫌だ嫌だ嫌だよ~!

涙が溢れ、子供の様に顔をくしゃくしゃにして私は泣いた。

その時に誰かが電話ボックスのガラスをバンバンと叩いた。










続く

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