第27話 総力戦
多勢に無勢と思われた戦況だが、4人だけで数的有利をまるでひっくり返した。
仲間が次々に倒れていくことに耐えられなくなったのか、教団員の1人が強行に出る。
「お、おい!コイツがどうなってもいいのか!?同じ仲間だろ……首飛ばされたくなかったら大人しくしろよ!」
男はアジトに捕縛されていた咎人の喉元にナイフを突きつけ、人質に取ったのだ。
他にも咎人は何人か椅子に縛られており、ここぞとばかりに教団員たちは彼らを盾に使う。
すると、潤んだ瞳で咎人達が訴えてきた。
「お前ら、俺達を助けに来てくれたんだよな?同じ咎人だろ?頼むよ……見捨てないでくれ」
まさかの命乞いに、樹の良心が揺さぶられ一瞬だけ手が止まる。しかし、ジンはそうはいかない。
「なにを勘違いしている?咎人に仲間意識などない。俺達の目的はあくまで奥に座ってる教祖だけだ。ソイツらは殺したければ殺せ」
ジンは人質を即座に切り捨てた。
そして何事もなかったかのように、再び教団員を気絶させる作業を開始する。
その光景を、捕虜となった咎人達は信じられないと言わんばかりに口を開け、血の気が引いていく。
そしてそれは次第に怒りに。
咎人達は罵声を浴びせ始めた。
「見捨てるのか俺達を!同じ咎人だろうが!人間の屑が……さっさと助けやがれ人でなしが!」
自分の立場を弁えずに吠える咎人。しかし、その声は届かない。
人質として全く意味を成さないことに気づいた教団員の男は、拳銃を突きつけた。
「人質の価値もないのか、このゴミがッ!」
「やめてくれ!命だけは助けてくれ!そうだ、俺も一緒に戦う!あの侵入者どもをブッ殺そうぜ、なっ!」
「清廉なる我々が咎人風情の力を借りるだと?笑わせるなよ!」
掌返しの命乞いは虚しく、怒りを買った教団員に引き金を弾かれ、捕縛されていた咎人は頭部は吹き飛んだ。内輪で揉めている間に、冷気を帯びた手刀で壊滅させてしまった。残ったのは、依然として椅子から動かないセンシュウと、過激な服装で侍らしている支援者の女たちだけだ。
未だに勝機があると踏んでいるのか、センシュウは表情を崩さない。
黒いマントを揺らしながらゆっくりと立ち上がるその姿は、紛れもなく教祖の風格がる。そしてフードを脱ぐと、肩まで伸ばした黒髪をパーマさせ、ゴツめの黒縁眼鏡をかけた素顔が明らかになった。
「随分と派手に荒らしてくれましたね。帝国が赦しても、神は貴様らの蛮行を赦しはしないでしょう。神に代わって……この私が直々に裁きを下します」
センシュウは異空間から生み出した片手剣を手に取り、徐々に距離を詰める。
彼の剣は処刑人の剣と呼ばれる形状をしており、刀身に切っ先がなく丸くなっている。刺突の機能を捨て、重心を乗せた斬撃に特化した首狩り用の剣だ。
じわじわと接近していたのが一変、センシュウは恐ろしい緩急で飛び出した。
標的となったのは先陣を切って戦っていたジン。
斜めに振り下ろされた太刀筋。ジンは持ち前の反射神経で間一髪、避けることに成功したが、ここは相手の方が1枚上手だった。
「……剣は1本じゃないですよ?」
右腕から下ろされた剣に注意を削がれている間に、センシュウは左腕にも処刑剣を用意していた。用意するまでコンマ数秒。あまりにも鮮やかで、フウカ達の援護も間に合わない。左腕から掬い上げられた剣は、ジンの腰から肩までを一直線に斬りつけた。
「ぐぅッ!?」
「ジン!下がってろ!」
激しく出血するジンを救出すべく、樹が魔法を放つ。
センシュウの足元を局所的に隆起させてバランスを崩させて、三度目の斬撃をギリギリで阻止することに成功した。
倒れ込んだジンのもとにすかさずフウカが駆け付け、治癒魔法をかける。
傷が深く出血が酷い。彼女の腕なら命に別状はないが、止血にしばらく時間がかかる。フウカから全体的に能力が向上するバフ魔法を浴びた樹が、なんとか剣の乱舞を短剣で受け止めるが、これでは魔法を撃つどころか剣で反撃する隙もない。
一方、タカハシはなにか思うところがあったのか動かなかった。
手当てを行いながら、フウカは仁王立ちして戦況を眺めるタカハシに頼み込む。
「タカハシさん……タツキさんに加勢していただけませんか。貴女の実力があれば、あの男を食い止めることができますよね」
「う~ん、手柄を独り占めしようと思ったんだけど。まぁいいよ。結衣ちゃんのお兄さんみたいだからね。……そういえば、アナタはどうして2人と一緒に行動しているの?咎人じゃないんだよね?」
「私は犯罪者が更生していく様子を見る為にこのゲームを始めました。冤罪かどうかは定かではありませんが、彼らは真っ当に生き直そうとしているのが伝わってきますから。応援する意味も込めて、手助けをさせていただいているのです。そしてフウカさん、貴女からも同じ匂いがするのです」
「フフッ、ウチを買い被り過ぎだよ。ウチは心の歪んだ根っからの悪人。でも今回はアナタに免じて加勢してあげる」
タカハシが妖艶に微笑むと、彼女の全身を紫電が迸った。
瞳孔が白く光り、瞳からも青紫の稲妻が駆ける。
早速、飛び込んでいこうとしたタカハシに、フウカは慌てて声をかけた。
「今すぐ私の魔法をかけますから!と回復力と魔力が……」
「大丈夫だよ、ありがとう。その男の治療を優先して。ウチはそう簡単に死んだりしないからね~」
彼女はニコッと笑ってそう言い残すと、広間を紫の閃光が貫いた。
規格外の速度でセンシュウの背後に回り込んだ彼女は、腰を捻って体重を乗せた回し蹴りをお見舞いしたのだ。灰色のスウェットに裸足という無茶苦茶な出で立ちだが、彼女の蹴りの威力は本物だった。
回し蹴りは脇腹を砕き、完全に不意を突かれたセンシュウは、不安定な体勢のまま壁まで吹き飛ばされた。先程まで鎮座していた椅子の近くの壁に背中から衝突し、周りで見守っていた支援者から甲高い悲鳴が上がる。
あまりの早業に、タツキも驚いた。
ベルナールに選ばれる実力は伊達ではないということだ。
「ありがとな、助かったぜ」
「そんなことより、面倒くさいからさっさと終わらせるよ。ただ奴の顔を見てると、まだなにか隠し持ってるのかもね~」
タカハシの言う通り、壁まで派手に飛ばされた彼の顔は全く悲観していない。
それどころか、最初の余裕を崩していなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます