第8話 皇后
「魔法使おうが、鉛玉1発脳天にブチ込んだら人間は死ぬ。結局はコイツが最強なわけだ」
男がニッと歯を出すと、引き金に指をかけた。
そしてそのまま容赦なく指で弾くと、強烈な発砲音とともに、樹を目掛けて弾丸が疾る。
——数時間前、大鳩に乗りながら空の旅を堪能していた最中、樹はただ景色を楽しんでいた訳ではなかった。
魔法発動に必要な指の動きや角度、加えて脳内でのイメージ補完。実践こそできていないが、基礎は高い水準で仕上がっている。
(……俺ならできる!)
男が引き金を引いたのと同時に、樹の魔法も組み上がった。比較的、発動が易しい土属性の魔法。足元が隆起してできた土気色の柱が、迫る弾丸を受け止めたのだ。
「痛てぇ……。まだ痛みは伴うけど、最初に火を起こした時に比べると全然耐えれるな」
依然として腕から出血はあるものの、以前のようにかまいたちに切り裂かれたような派手な傷ではない。その成長ぶりに、ジンも目を剥いた。
「この数時間でここまでモノにできるとは。上出来だ、あとは俺に任せろ」
後ろで様子を見ていたジンがここで前へ出て樹を庇った。
しかし、男を筆頭に咎人組合の皆さま方も黙っちゃいない。全員が一斉に武器を抜き、殺意を注ぐ。無数の銃口に圧倒される樹。だが、ジンは怯まない。
スキンヘッドの男は部下達に命じる。
「アイツら2人とも殺せ!この街で俺達に逆らったらどうなるか思い知らせてやれ」
周囲の市民たちは見て見ぬフリ。好奇心から一瞥こそすれ、注意も通報もする様子はない。懸賞金目当てで襲い掛かってくることはあっても、ゲーム製作者からNPCとして設定されている市民は基本的に咎人同士の争いには干渉しないのだ。
男の号令から間もなく、十数の銃口が火を噴いた。
ジンはまるでタイミングを計っていたかの如く、条件反射のような速度で魔法を繰り出した。速度も規模も、樹の魔法を遥かに上回る。
横に広がる巨大な氷壁。弾丸を受け止めて埋め込ませる厚さも充分。
突如出現した氷の壁に、彼らの銃連射は簡単に無効化されてしまった。
「なにを休んでんだ!殺すまで撃ち続けんだよ!」
「それが頭……もう弾切れで……」
「なっ、なんだと!?だったら刀でも担いで斬り込みに行けや!」
発破をかけられ、無策で飛び込む部下達。
統率が崩れてしまった組織は、あまりに脆い。ジンほどの実力者相手には、数でゴリ押すだけの戦法は通用しないのだ。
ジンが指を鳴らすと、氷の壁が崩れて無数の氷柱へと変貌を遂げる。
ナイフより鋭利で透明な円錐が黒ずくめの男達を牽制する。氷柱は太腿や脇腹を掠めると男達は痛みに悶えて転がり、あっという間に戦闘不能になった。
残るは大将のスキンヘッド1人だけだ。
「俺様だって魔法を使えねえ訳じゃねえんだよ!」
男は吠えると、なにもない空間から炎の剣を創り出した。
刀身は日本刀並み。燃え滾る刀を片手に、男は真っ向から挑んできた。
「いいだろう。俺と魔法で力比べしてみるか?」
ジンは十八番の水属性の魔法を応用して氷塊を生み出すと、男と同じく刀の形に加工して構える。動じず、静かに燃える剣先を見つめ、時を待つ。
刀身が交わった時、炎と氷では分が悪いと樹は見ていたが、相性の悪さなどを超越するほどジンの方が全てで上回っていた。
氷が触れた瞬間、男の握っていた炎の刀はみるみる凍りつき、やがてバラバラの氷塊になって崩れ落ちた。
呆然としてガラ空きになった男の腹を、強靭な脚で蹴り飛ばした。
屈強な男の身体はゴロゴロと転がりながら、やがてレンガで建てられた家に衝突する。男は完全にノビた様子で、気絶したのかなにも喋らなくなった。
「タツキ、帝国の警察どもが来る前にさっさと逃げるぞ」
「警察?この世界にもそんなモンがあるのか?」
「当然ある。咎人が好き勝手するのを阻む為だ。基本的には巡回しているが、騒ぎがあると聞きつけてやってくる。それに……」
「それになんだよ!」
「もうすぐ『風帝祭』が開催される。簡単に言うと、この国の皇帝である『風帝』が皇后と大量の護衛を連れて巡回するパレードだ」
ジンに手を引かれ、その場を立ち去る2人。
すると言っている傍から、騒がしい音楽が聞こえてきた。
太鼓を叩き、楽器隊が賑やかに演奏しながら行進する集団が大通りを近づいてきたのだ。その集団の中心には数えきれない量の護衛によって、豪勢に装飾されたド派手な神輿が担がれている。そこに鎮座しているのが、この帝国の長こと『風帝』だった。
物陰からコッソリと様子を覗くジンと樹。
財力をそのまま身に纏っているような悪趣味な服装。前髪を立ち上げ、耳元で毛先が外にハネる金髪の美青年。美形な二次元のキャラをそのまま形容したかのような姿をした風帝の容姿に、市民は思わず視線を奪われる。
だが、樹を釘付けにしたのは彼ではなかった。
樹が驚いたのは、その横に静かに座る皇后の女性を知っていたからだ。
「……結衣?」
見紛うハズがない。数年会っていなくても、実の妹の顔だ。
世間で自分に殺されたことになっている結衣の姿が、どういう訳かそこにはあった。
衝動的に物陰から飛び出そうとする樹。その腕を掴んでジンが引き留める。
「早まるな。今のお前が出ていったところで相手にされる訳がない」
「うるせえよ!結衣が目の前にいるんだ!黙って見ていられるか!」
結衣との思いがけない再会に、樹は目を血走らせて冷静さを失っていた。
ジンの制止を振り切りパレードに乱入した樹は、両手を広げて進行を妨げる。
「結衣!俺だよ、お兄ちゃんだ!そんなところで何してんだよ、俺と一緒に……」
真っ直ぐに結衣の瞳を見つめて叫ぶも、樹の身柄は警備隊によって即刻取り押さえられた。皇后の女性はまるで人形のように表情を崩さず、拘束される樹の姿をジッと眺めている。
「離せ!俺は結衣と話がしたいんだ!あそこに座っているだろ?俺の妹なんだ」
「なにをバカなことを言っている。皇后様に兄など存在しない」
「皇后じゃねえよ!新御堂 結衣って名前だろ!お前らじゃ埒が明かねえ、いいから直接話をさせろ!」
「精神異常者が!まずはその忌々しい頭上の炎を消してから出直してきやがれ!さっさと摘まみだせ!」
樹は複数の警備隊から警棒で滅多打ちにされ、瀕死の状態になるまで殴打された。
そして最後は道の脇にゴミでも捨てるように雑に投げ捨てられ、樹の侵入などまるで無かったかのようにパレードは進行していった。
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