本編
中学校に入って三年目の夏休み、私は久しぶりに母方の祖父母の住む高知県へと遊びに来ていた。
幼い頃はよく遊びに来ていたが小学校から始めたバスケットボールの練習などや近所の友達との遊びなどを理由に最近は祖父母に会いに行っていなかった。
最後の大会で早々に敗退し部活は引退、長い夏休みを持て余している私を見かねた両親が
「久しぶりにおばあちゃんのところに遊びに行こう」
と提案して私も特に断る理由もなく、今回の訪問を行う事となった。
祖父母は私のことを心待ちにしていたらしく、大量のお菓子や昔好きだったアニメのおもちゃのどを用意して待っていてくれた。
正直、今の私には子供っぽい物だったが私の事を思い用意してくれた祖父母の事を思うと無下には出来ず、かといって面と向かってきちんとお礼を言うのは気恥ずかしく、小さな声でありがとうとだけ言っておいた。
荷物を置き、一息つくとお母さんとおばあちゃんはまだお昼過ぎだというのに夕食の準備を始め、父とおじいちゃんはビールなんかを飲み始めてしまった。
私もはじめのうちは父とおじいちゃんと席を囲みお菓子やジュースなんかを飲みながらおじいちゃんからの「いくつになったんだい?」や「学校は楽しいかい?」とかの質問に答えていたが次第に飽きてきてキッチンに行った。
「○○さん、今年結婚だって。」「えーもうそんな歳なのねぇ」
お母さんとおばあちゃんは世間話に夢中で私がキッチンへ来たことも気が付いていないようだった。それでも手は止まらず料理を作り続けていてなんだか私は感心してしまった。
手伝いをしようかとも思ったがその時、不意に大きなあくびが一つ出た。思いのほか車での移動で疲れていたようだ。
「お母さーん、私ちょっと寝てるね。」
と言うと
「あら、じゃあ出来たら起こすわね。」
「長旅で疲れたでしょ、ゆっくり休んでね」
とふたりは言い、また世間話へと戻っていった。
私は二階へ上がると私と母が泊まるときいつも使っている部屋へと入り布団を敷いた。普段はベットで寝ている私だが、何故かこの家の布団はよく寝れて好きだ。
クーラーも無く、扇風機だけが夏の暑さを和らげてくれる不便な環境だが、都会と違い爽やかな風が吹くためか、間もなく眠りについた。
「ご飯できたわよー!」
と言う母の声で目が覚めた。どれくらい寝ていたのだろう。スマホで確認すると二時間ほど経っていた。いったいどれほどの料理を作ったのだろうか…。
下へ降り居間に入るとまるで宴会か何かのような量の夕飯が並んでいた。
母と祖母が作ったであろう天ぷらや煮物、サラダなどのほかに私が寝ている間に買ってきたのか寿司や焼き鳥なんかもあった。
ああ、そういえばいつもこんなんだったな…と昔来た時の光景を思い出しつつ運動部なめるなよ!という妙な負けん気も自分の中に生まれていた。
私がむしゃむしゃ食べていると、おじいちゃんやおばあちゃんは
「よく食べてくれてうれしいわ」「いっぱい食べて元気で過ごすんだぞ」なんて言うが食べ物をなるべく残したくない性質なだけで途中から気分はもうフードファイターだ。食の細いおじいちゃんおばあちゃんはもとより既にべろんべろんの父も頼りにならなく結局ほとんど私が食べたと思う。かなり残ってしまったが。
「残りは明日食べてね」とおばあちゃんは言うが私は知っている。明日は明日でまたかなりの料理を作るため総量は変わらないことを…
母とおばあちゃんと私は食器を片付けてお風呂に入るともう寝る準備を始めた。おじいちゃんとお父さんは酒盛り第三ラウンドを始めるようだ。
おじいちゃんとおばあちゃんの部屋は一階にあり、おばあちゃんとは階段の前でおやすみ、と言い別れた。
二階の私達の部屋に入り
母の隣で布団に入るのなんて何年ぶりだろう。なんだか気恥ずかしいななんて思っていると横から寝息が聞こえ始めた。そわそわしていたのは私だけらしい。なんだかほっとして私も眠りに付いた。
しばらくしてから喉が渇き目が覚めてしまった。
夕食の大食いが祟ったのか、それとも風も吹かないじめじめとした部屋の暑さのせいか、恐らくその両方だろう。
私は一階に降り居間を覗いた。既にお父さんとおじいちゃんはいなかった。流石に眠りについたのだろう。スマホを見ると既に三時を回っていた。
キッチンへ行き、冷蔵庫の麦茶をコップ一杯飲み干すと私の目は妙に冴えてしまった。
さて、どうするか。いつもならスマホで動画なんかを見て過ごすのだがこの場所は電波が弱い、もちろん家にWiFiも通っていない。
電気をつけておじいちゃんおばあちゃんを起こしてしまうのも申し訳ない。となると外でも散歩しよう。
私はあてもなく家の周りを散歩してみる事にした。
綺麗な満月の夜だった。
街灯もまばらな田舎だが月明りのおかげで怖いと思う事はなかった。
海が近いおかげか蚊もいなく気を良くした私はどんどん進んでいった。方向は何となく海の方面だ。
二十分ほど歩いただろうか、不意に私の前に坂が現れた。
何の変哲もない坂だが左に緩やかなカーブを描いており、坂の頂上が見えない。
その時私はおばあちゃんの言っていた狸が出るという坂の事を思い出した。
まさかこの坂がおばあちゃんの言っていた坂なのだろうか?
そんなことはないと思いつつも一度気になるとどうしてもそう思えてしまう。私は急に怖くなってきた。けれどもしここで引き返したら祖父母の家から帰っても、もしかしたら一生気になったままかもしれない。
ここでも謎の負けん気が生まれ私はこの坂を上ってみる事にした。
まばらながら街灯もきちんとあるし、路面もしっかりアスファルトで舗装されている。けれども両脇には鬱蒼とした森があり、突然何かが飛び出してくる、という様子を否が応でも想像してしまう。
私はあえて胸を張り、堂々と歩いた。なににかは自分でも分からないが(ビビったら負けだ!)と自分に言い聞かせた。
中ほどまで登った時。
バチンッ!
「うわっ!!」
私の頭上の街灯が大きな音を立てて切れた。私は大きな音に驚き、つまずいて膝をついた。。
つまり、転んでしまった。
痛む膝を撫でながら立ち上がると辺りが妙に暗い。
慌てて周りを見ると先ほど電球の切れた街灯はおろか、あたりの街灯全ての明かりが消えている。
「停電かな?」
恐怖心を抑えるためあえて口に出す。不意に
「ヒヒヒヒヒ…」
笑い声が聞こえた。方向的に右の方の森から聞こえた気がした。
私はたまらず坂を下って駆け出した。
「フフフ…」「キャハハハ…」「ヒヒヒヒヒ…」
笑い声は私についてくるようだった。
「あっはっはっはっは」「クスクス…」
どこまで行ってもついてくる。
疲れて立ち止まった時には左右の森のそこら中から笑い声が聞こえていた。
そしてどう考えてもこの坂が長すぎる事に気が付いた。仮にも運動部の私が息が上がるまで駆けても下り切らないほど長い坂ではなかったはずだ。
私はもう半分泣きべそをかいていた。
そこで私は初めて狸に化かされている最中だと気が付いたのだった。
「ヒッヒッヒッ…」「がははははは…」
途方に暮れて空を見上げた
(このまま朝まで待てば終わるだろうか…)
と呆然としていると
「あれ?なんだ?」
夜空に輝いていた月が、二つある。
片方は見慣れたつきだがもう片方は何だか尻尾のようなものが下から出ている。
その時私の中で謎の合点がいった。
あの月こそ今回の怪異の元凶なのだろう。あそこから私を見下して困っている様子を見て笑っているのだろうと。
先ほどまで恐怖に囚われていた私の心に怒りが沸いてきた。
田舎の狸にいいように笑われて半泣きまでなっていた自分が情けなく思えてきた。
私は足元に転がっていた手頃な大きさの石を拾った。石だと思って拾い上げたそれは人の骸骨だった。が、もう私はそんなことは気にしない程頭に血がのぼっていた。どうせこれも狸の仕業なんだろう。
私はその骸骨を偽物らしき月に向かって思いっきり投げた。
「ギャッ!」
私の渾身の投擲はどうやら月まで届いたらしい。
偽物の月は小さくなりながら下へと落ちてきて大き目の犬ほどの獣の姿になるとそのままドササササッと森の中へと落ちて行った。
ふと、あたりを見ると電灯が元の様に点いていた。
それからは無我夢中で祖父母の家に帰り母の隣の布団へともぐりこんだ。
「もう朝よ!起きなさい!」
目が覚めると隣に母は既にいなく一階から母の呼ぶ声がした。
ああ、変な夢を見たなぁ…
眠気まなこをこすりながら階段を降り居間へ向かうと
「あれ?あんた膝どうしたの?」
そう言われ膝を見るとそこにはころんだあとの様に血が滲んでいた。
狸の話 なまはげ @namahagejp
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