#8 Da Capo その⑧ (ST:緑川 安美)

一方、奏の部屋にドーナツとアイスティーを届けた安美は、未来と話しながら未来達に出す分のドーナツを用意していた。


そんな中、1人だけ顔を赤くして不機嫌な男の姿があった。

その男の名は、鬼怒川 力(くにかわ つよし)。


彼は安美や未来と高校の頃からの仲で、とある日を境に最初は敵視していた安美に対して17年間も一方的な恋心を抱き続けている、そこそこヤバめな男である。


鬼怒川 力

『何なんだよ! あのもやしみたいな男は!』


天光 未来

『どっかのストーカー野郎と違って、私は爽やかで良い子だと私は思うけどね。』


鬼怒川 力

『ぐぬっ・・・。

あー!面白く無い!面白く無い!俺は帰るからな。』


そう言うと力は、本当に玄関へ向かい外へと出て行ってしまった。


緑川 安美

『え?本当に帰っちゃったの?』


天光 未来

『全く子供みたいな奴だよな。

まあ、良いんじゃない? その方が落ち着くだろ?』


緑川 安美

『ふふふふ。そうかもね。』


そう言いながら2人は、顔を見合わせ呆れ顔で笑っていた。


安美は気を取り直しグラスを手にすると、『コーヒーと紅茶、どっちが良い?』と未来に尋ねた。


天光 未来

『コーヒーをお願い。砂糖を多めにしてね♪』


緑川 安美

『了解! じゃあ、私もコーヒーにしようかな。』


コーヒーの入ったグラスに氷を入れ、掻き混ぜながら安美は気になっていた事について、未来に訪ねてみる事にした。


緑川 安美

『ねえ、未来ちゃん。』


天光 未来

『ん? 何?』


緑川 安美

『七央君の事なんだけど。』


天光 未来

『えっ! もしかして安美も心配してるの?』


緑川 安美

『違う! そうじゃ無くて・・・。

「首元の痣」の事なんだけど・・・。』


天光 未来

『あゝ、もしかして気付いちゃった?

あの子は、倉井 嘉來(くらい かこ)の生まれ変わりだよ。』


緑川 安美

『やっぱり、そうだったんだ。』


------------

緑川 安美:

倉井 嘉來、その少女と出逢ったのは、18年前、私が高校2年生の夏の事でした。


嘉來ちゃんは、幼少期の未来ちゃんの唯一の親友で、嘉來ちゃんにとっても未来ちゃんは、人生において唯一の親友の様でした。


私が知っている嘉來ちゃんは、母親から酷い仕打ちを受けており、身体の至る所に痣がありました。


その中でも私の記憶に残っていたのは、首元にあった大きな痣でした。


当初、私は首の痣も暴行によって出来たものかと思い、心配で嘉來ちゃんに訪ねました。

でも嘉來ちゃんは、『首の痣は生まれ付きのものだ』と答えてくれました。

ですが当初は、嘉來ちゃんが私に心配を掛けない様に『嘘を付いたのだ』と思っていたのでした。


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緑川 安美

『じゃあ、あの時に言っていた夢、本当に実現させる事が出来たんだね。』

 

天光 未来

『まあね。 だからと言って今も、あの頃と変わらず遠くから見守っている事くらいしか、私には出来ていないんだけどね。』


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緑川 安美:

そう話しながらも、未来ちゃんの表情は、今までに見た事が無いくらい穏やかでした。


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未来の前に、お皿に盛ったドーナツとコーヒーを差し出す安美。


天光 未来

『ドーナツ1つで良いよ。夕飯も近いし。』


緑川 安美

『じゃあ、箱に戻すから鬼怒川さんの分と一緒に持って帰って!』


天光 未来

『いいよ! いいよ!

あいつ(鬼怒川 力)用に買ってあった分と一緒に冷蔵庫にでも入れておいて、後で奏ちゃんと食べれば良いよ。』


緑川 安美

『大丈夫! 大丈夫! こんなにあっても残っちゃうから!

私も全部は食べられないから、残りの2つは後で奏ちゃんに食べてもらうから。

蒼君(未来の息子)も食べれるでしょ?』


天光 未来

『食べるけど、いいよ! いいよ!

あの子は、味わいもせずにパクパクって食べるから勿体無いって!』


緑川 安美

『ふふふふ。何それ!

美味しいから、パクパクって食べるんでしょ!』


安美はドーナツを箱に戻すと、『残り物を押し付けるみたいで悪いけど、良かったら帰って蒼君や旦那さんと一緒に食べて!』と言い、未来にドーナツの箱を手渡した。


天光 未来

『気を使わせて御免ね。有難。』


そう言うと未来はドーナツを1口食べ、安美はコーヒーを一口飲んだのであった。

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Best of Memories ~黒い雲と白い傘~ 七瀬 ギル @hiroshi_vii

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