執着する男


 椎名拓郎は乗る電車を間違えた。

 それはオカルトクラスタでまことしやかに囁かれる幽霊列車だった。


「降ろしてくれー!!」

「他のお客様のご迷惑になるので、大声はよしてください」


 車掌に怒られた。

 これも人外なのだろう。椎名は前抱きのリュックを持って身構える。


「勘が良すぎるのも考えものですね」

「始末する時の言葉だ! もうだめだ!」

「別に私は始末はしません。あなた自身の問題ですから」


 車掌は運転席へ戻っていった。


「どうかお願いします見逃してくださいまだ死にたくありません」

「ですから、私は列車を運行させるだけです。行き先は皆さん決まっていますので」


 椎名はリュックを下して考えた。


「僕の行き先ってなんだ?」


 座席に戻って考えはじめた。

 椎名は昔からアニメ漫画ゲームだけが友人で人間嫌いだった。だというのに馬鹿にしていた地下アイドルにどっぷり嵌った。その矢先、推していたぽぽみが服薬自殺をした。

 打ちひしがれていた椎名は自分の人生がよくわからなくなって、乗る電車を間違えたのである。


「僕の人生ってなんなんだ!?」

「叫ばないでください」


なんだかんだ騒ぎながら、人生がよくわからなくなったことなんて何度も有ったような気がする。椎名は諦めた。

 リュックを開く。人生がよくわからなくなって取り寄せたおでん缶1ダースを開けた。


「それは……」


 車掌の声が響く。

 おでん缶が気になるらしい。


「……いりますか?」

「………」


 運転席に箱を置いたところ、椎名は次の駅で地上に降り立った。

 幽霊列車に賄賂は通用するらしい。



  了

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