式神さんがやって来た

船越麻央

 北風響と冬月時雨の物語

 僕は北風響。白金学院高校の三年生である。もっとももうすぐ卒業して四月からは大学生活が始まる。


 今日は卒業式前の数少ない登校日だった。その帰路僕はあるクラスメイトと一緒だった。冬月時雨さん。容姿端麗、学力優秀、まさに才色兼備の女子高生である。

 僕はそんな彼女と肩を並べて歩いている。


 なぜ僕がそんないい思いをしているのか。実はこれにはワケがある。僕らが高校二年生の時、僕と冬月さんはある事件に巻き込まれたんだ。

 その事件の解決後、僕と彼女の距離は大きく縮まって、その、つまり、友達以上恋人未満の関係になって現在に至った。


 僕はスポーツマンではないしイケメンでもないはずだが、なぜか何回か女生徒に言い寄られた。その度に僕は冬月さんへの釈明に追われた。


「ふ、冬月さん、ご、誤解しないでよ~」

「北風君、いいんですよ別にわたしに遠慮しなくても」

「ちょ、ちょっと待って、おーい峯雲、何とかしてくれっ!」

「なによ北風! また浮気したの? まったくどうしようもないっ! 冬月さん行きましょっ」


 てな具合でこの一年間、彼女との関係は進展せず。ちなみに峯雲とは峯雲深雪のことで高校入学以来ずっと同じクラスの女子だ。


 まあ僕にとって冬月時雨さんは高嶺の花だったから、今の関係で十分満足しているんだけどね。

 進学先も、成績優秀な冬月さんは系列の白金学院大学、僕はやっとこさ東京産業大学と別々になってしまたし。ちなみに峯雲深雪はなぜか名門若百合女子大学へ決まった。有名なお嬢様大学だよ。世の中少し間違ってる。


「北風君……もうすぐ卒業ですね。卒業してもわたしと……」


 僕と冬月さんとの関係は、クラスで既定事実となっているらしく、こうやって一緒に歩いていても何も言われない。


「冬月さん、えーと、ハークション、大学にいっても……ハークション」

「もう北風君たら……大丈夫?」


 まったく肝心な時に花粉症の症状が。カッコ悪いたらありゃしない。


「北風響クンに冬月時雨さん。お久しぶりね」


 突然背後から女性の声がした。僕らが驚いて振り向くとそこに立っていたのは……立っていたのは金髪碧眼の超美女! 天霧吹雪先生‼ 間違いなく天霧吹雪先生だ。


 僕も冬月さんも仰天して絶句した。


 天霧吹雪先生は世界史の担当教師だった。例の事件の際、僕と冬月さんを助けてくれた大恩人で、その後突然学校を辞めて姿を消してしまった女性だ。


 その天霧先生がニコニコしながら立っている。相変わらずの美貌、キャリアウーマンのような濃紺スーツを着こなしている。


「二人ともそんなに驚かなくても。いつもニコニコあなたの隣に這いよる混沌、天霧吹雪をお忘れなく」


「せ、先生、ホントお久しぶりです。いったいどうしたんですか」

「うん、ちょっとイロイロあってね。二人とも元気そうでなによりだわ」

 僕の問いに先生は答えた。

「それで、今日はお二人に会わせたい人がいるのよ」


 よく見ると先生の隣に、男性が一人立っていた。長身瘦躯、黒髪に青白い顔、黒いスーツに黒ネクタイ。まるでどっかの葬儀の帰りみたいだ。


「はじめまして、村崎式部と申します」男性が口を開いた。


『ム・ラ・サ・キ・シ・キ・ブ??』


「それって源氏物語の作者じゃないですか?」今度は冬月さんが言った。


「いえそれは【紫式部】。ぼくは【村崎式部】です。間違えないでください」

 男性は憮然として答えたけど何だかよく分からん。


「フフフ……実はこの村崎式部は元死神なの。今はまあ改心(?)してワタシの式神をやってもらってるわ」


 せ、先生、天霧先生! いったい何を言ってるんですか⁉ 元死神? 改心して式神? 村崎式部だと?


「驚くのも無理ないわね。これにはちょっと事情があって。おいおいゆっくりと説明させてちょうだい」


「それで先生、わたしと北風君に何か御用でしょうか?」


「さすが冬月さん、落ち着いてるわね。今日こうして来たのはお二人にお願いがあるからなの」


 天霧先生は僕と冬月さんの顔を交互に見て、意味ありげに笑った。


「単刀直入に言うわ。この村崎式部がお手伝いします。お二人にはハッピーエンドになってもらいたいのよ。今のままではちょっと困るから」


「はあ? ハッピーエンドですか……」


「そうよ冬月時雨さん、北風響クンと結ばれて欲しいの」


『先生‼』

 僕と冬月さんは同時に声を出した。


「ぼくは残念ながら元死神ですが、いまは吹雪さんの下で働いてます。死神には戻れませんのでご心配なく」


 そういう問題ではなくて……僕と冬月さんが結ばれる……そりゃあうれしいけど。彼女の気持ちも尊重しないと……。


「ハハハ、北風クン気にいったよ。ぜひぼくに手伝わせてくれたまえ。がんばれよ」

 なんだコイツいい加減にしろ!


「……でもどうして……わたしと北風君が……その……む、結ばれ……」


「そうね、不思議よね。うーん、実はここの所バッドエンドが続いていてストレスが溜まっているのよ。そこでお二人に登場願ったワケ。ぜひハッピーエンドを迎えて欲しいの。式部! 失敗は許されないわ。元死神の名誉にかけて上手くやりなさい!」


「ヘイヘイ、上手く行ったら給料上げてくださいよ」


「天霧先生……村崎式部さん……ハークション、ハークション」

「き、北風君……大丈夫?」


「それではグッドラック!」


 金髪碧眼の超美女、天霧吹雪先生は悠然と去って行った。


 

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