30代C級剣士は悲観する

@kenken48555

第1話

 この世界には魔物と呼ばれる凶暴な生物が存在しており、魔物は人々の生活を脅かしている。

 人々は日々の生活を守るために、剣を手に取って自ら戦うことを選んだ。

 俺の住むこの国では、剣士は周りの戦えないものを守る存在として敬われる存在であると同時に、魔物から国を守るための重要な戦力でもある。

 国は重要な戦力である剣士の実力を把握し、かつ戦力の消耗を避けるために剣士に対しランクを付けることにした。

 基本的に最上級であるA級から最下級であるG級の7つのランクに分けられ、上級になればなるほど剣士としての実力が優れていることの証明となる。

 また国に対する特別な貢献や特殊な魔物の討伐実績があるA級剣士は国からS級という特別なランクもあるが、数十年に一人現れるかどうかという状態で現状該当する剣士はいない。

 この剣士のランク認定を管理するのは国が運営するギルドであり、ギルドはランクを元に適切な依頼を剣士達に割り当てて魔物の討伐を行わせている。

 ランクを上げるには剣士本人の実力を見る実技試験と、魔物討伐の実績をもとにギルド側で昇級するかどうかの判断を行っている。

 ギルド側でランクを管理することで剣士達が無謀な魔物討伐に赴くこともなく、戦力の消耗を避けながら剣士達の育成も行っている。


 俺も幼いころから剣士になることを夢見て鍛錬を行い、実際に剣士になった後も鍛錬を積み重ねてきた。

 魔物討伐も積極的に行い、魔物討伐の実績を積み重ねていくことで30歳を前にしてC級に昇級することが出来た。

 C級に昇級した後もB級昇級を目指して鍛錬を積みながら魔物討伐の実績を積み重ねているのが俺の現状だ。


 俺は疲れた身体に鞭を打ちながら、ギルドまで帰還した。

 ギルドから依頼された魔物討伐を終えたので、その討伐報告に来たのだが普段より手間取ってしまいギルドへの帰還が遅くなってしまったのだ。

 俺はギルドの報告窓口に向かうが、普段よりも帰還が遅いからか、既に報告窓口で報告をしている剣士はまばらになっていた。

 疲れもあるのでさっさと報告を終えて自宅へ帰ろう。

 

 「依頼された魔物討伐が完了したので、その討伐報告に来ました」

 「お疲れさまでした、それでは報告をお願いします」

 

 俺は普段通りに魔物討伐の依頼内容とその討伐が完了したことを報告窓口の担当者に告げて、その報酬を受け取った。

 依頼の難易度はC級剣士が受けるには一般的な難易度であり、月に何度か依頼をこなせば生活をしていくには十分な報酬を得ることができる。

 報告を終えた俺は自宅に戻るため、ギルドを後にしようと入口に向かって歩き始めたところで他の剣士達の話が聞こえてきた。


 「聞いたか、例の若手剣士のこと」

 「聞いた聞いた、弱冠20歳にしてC級剣士に昇級が決まったんだってな」

 「ここ数十年出てないSランクに昇格することも夢じゃないようなレベルの腕前だってよ」

 「C級昇級前にB級剣士が討伐担当するような魔物の討伐も行ったって話だし、末恐ろしい剣士だよな」

 「その感じだとあっという間にB級にも昇級しちまいそうだな」

 「どこまで順調に昇級していくか見ものだな」

 

 俺は聞こえてきた剣士達の話についつい耳を傾けてしまっていた。

 気を取り直して帰ろうとすると今度はギルドの職員達の話が聞こえてきた。


 「例のB級剣士、昼間依頼達成報告に来たけど順調に討伐実績を積み重ねてるみたいですね」

 「そうだな、剣士になるのは遅かったが才能なのか努力の賜物か、あっという間にB級剣士になって実績を積んでいるからね」

 「B級剣士として頼りがいが出てきましたし、このまま順調に討伐実績を積んでくれればA級剣士も夢じゃないですね」


 今日は色々な話が耳に入るものだ。

 何となく暗い気分になりながら俺は自宅に向かって歩き始めた。


 俺は自宅への帰り道、ギルド内で聞いた先程の話を思い出してた。

 B級剣士は今の俺では到底対応できないような討伐依頼を成功させて、俺よりも優れた実績を積み重ねてA級剣士を目指せる状況だという。

 それに俺よりも断然若い剣士がC級剣士に昇級するということは、俺よりも圧倒的に若く才能に溢れる剣士が出てきたということだ。

 俺は幼いころから剣士になることを夢見て鍛錬を積み重ねてきた。

 その結果として無事に剣士になることが出来て、今ではC級剣士としてそこそこ活躍できているという自負がある。

 そして今もB級剣士への昇格を目指して鍛錬を続け、討伐実績を積み重ねている。

 

 だが、今日のギルド内で聞いた話を思い出すと果たして俺はこれまでの鍛錬や討伐依頼の対応を続けていいのかという考えが浮かんでくる。

 俺より才能溢れる若手剣士が出てきて、今までと同じやり方ではあっという間に若手剣士に追い抜かれるのではないか。

 先を行く剣士が俺より優れた実績を積み重ねていく中で、これまでのやり方では追いつくどころか差が開いていくだけではないか。

 このままでは俺はB級剣士にはなれず、俺よりも優秀な若手剣士がより高みに行くことを見ているだけになるのではないか。

 しかしこれまでのやり方を急に変えられるわけもなく、仮に変えたとしても結果が伴うとも考えられない。

 考えれば考えるほど俺自身の剣士としての先が見えず、将来を悲観しながら足取り重く自宅への帰り道を歩くことになってしまった。


 自宅に戻った俺は、元々討伐依頼で疲れていた上に色々と悲観的な考えを繰り返して一層疲れた身体を休めたいと考え、今日はもう寝ようかと寝床に向かおうと足を向けた。

 しかし討伐依頼をこなした以上は得物である剣の手入れを行わなければと思い直して、剣の手入れを行うための準備を始めた。

 剣の手入れを行う準備を終えた俺は、自身の得物である剣に向き合い手入れを始める。

 この剣はC級へ昇級した際に奮発して購入した剣であり、C級剣士としての俺をこの数年支え続けてくれた剣である。

 いつも通りの手順で手入れを進めながら、C級剣士として過ごしてきたこれまでの日々を思い返していた。

 鍛錬は決して簡単なものでなく、より上を目指すために年齢を重ねた身体には負担となるようなものをしっかりと行っている。

 魔物討伐も討伐対象に関する情報収集や現地調査を行い、しっかりとした準備を整えたうえで命を失う覚悟を持って魔物の討伐に取り掛かる。

 いずれも容易ではないといえることをしながらより上を目指して頑張っているという自負はある。

 

 だが、それは他の剣士も同じことではないか。

 ギルドで話題になっていたC級へ昇級する若手剣士も実績を積み続けるB級剣士も、俺と同じように日々を過ごしているのではないか。

 ならば俺がいくら努力したとしても、他の剣士達も同様に努力しているのであれば若手に追い抜かされることもあれば、先を行く剣士に追いつけないこともあるだろう。

 俺がB級剣士やさらに上のA級やS級を目指し努力しても、周囲も努力しているのであれば俺がいくら努力したとしても必ずそれが報われるとはわけではない。

 俺は剣の手入れをしながら、そんなことを考えてしまった。


 俺は剣の手入れを終えて、手入れ道具の片付けを始めた。

 手入れの際に考えていたことが頭から離れず、手入れ道具の片付けをしながらこれからどうしていくべきかということを考えてしまっている。

 このまま剣士としてやっていけるのかというような悲観的な考えすら頭をよぎる。

 ただ俺には剣士としての生き方しか知らない。

 日々の生活をしていくためには稼ぐ必要があるが、これまで剣士として生きてきた俺にはそれ以外の稼ぎ方がわからない。

 剣士以外の仕事をして生きている人々もいるため、剣士以外の仕事で生活すること自体はできると思う。

 ただC級剣士は命を失う可能性もあるが、稼ぎが悪いわけではない。

 今の俺が生活をしていくには剣士を続けることが一番いいと思う。

 努力が必ず報われるわけではないが、現状他の仕事をするより稼げているのはこれまでの努力の結果なのだろう。

 今後剣士としての俺がどうなるか分からないが、今は生活をしていくための稼ぎを得るためも剣士としての鍛錬を続けて魔物討伐にも取り組んでいくしかない。

 その過程で若手剣士に追い抜かされることもあるだろうし、上級剣士との差が開いていくこともあるだろう。

 ただ俺がB級剣士に昇級する可能性がゼロになったわけではないし、もっと上の級を目指すことだってできるかもしれない。

 今は日々の生活をしていくために、そしていつか昇級する可能性をゼロにしないためにも努力を続けていこう。

 そうと決まれば明日以降の鍛錬や魔物討伐に備えて今日はもう休もう。

 そう考えた俺は手入れ道具の片付けを終えて、寝床に向かうのだった。

 

 

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