自分のYouTubeチャンネルにアンチコメントが来たけど僕の彼女じゃないよね。
青冬夏
アンチコメントが来たんだけど。
ある日のこと。ふと、自分のYouTubeチャンネルにコメントが一通届いていた。
@user-takehama0011
テンポ良く進まなすぎ。構成しっかりと考えろ。
──なんだ、只のアンチか。
とは言っても、まさか登録者数が千人にも満たない、この弱小チャンネルにまさかアンチコメントが届くなんて……暇な人も居るんだな、とうっかり納得してしまった。
──とりあえず、返信用のコメントでも送るか。
僕はスマホで着々と文章を綴り出す。
ちなみに、僕が運営するYouTubeチャンネルはさっきも言った通り、登録者数は千人にも満たない弱小チャンネルである。投稿するジャンルは偏っており、ある動画は本を紹介する動画だったり、ある動画は音楽を紹介する動画だったり、またある動画はVLOGという巷で最近流行っているものに手を出した動画などがある。──まあ、どれも再生回数は少ないけどね。
早くこの登録者数を収益化可能の域まで伸ばさないと──そう思っている最中、返信用のコメントが出来上がり、そのままアンチコメントの主に送り返す。その後、YouTubeを開いて「猫ミーム」と検索、色々な動画を視聴し始めた。最近はこの猫たちの動画を使った動画が流行っているらしい。いつか僕もこういう動画も作りたい──と思っているが、再生回数が元々から少ないため、どうも作る気になかなかなれない。どうしたものか。
猫ミームの動画を見始めてから数十分が経過した頃、画面上部に僕の彼女からラインが届く。新着メッセージとだけしか記されておらず──一体何だろうかと部屋に飾っている時計の針を一度一瞥した後、僕は彼女とのトーク画面を開いた。左上に彼女の名前──陽菜と書かれているのを確認した後──なぜなら最近、僕は所謂誤爆ラインというものが多いからだ──、送られてきたメッセージを確認する。
陽菜
「あんたが投稿してる動画、マジなんなん?」
──毒舌ドSかな。
送られてきたメッセージの下に動画が出ていた。その動画は紛れもない自分のYouTubeチャンネルに投稿していたものであり、言い訳なんてとても考えられそうにない状況になっていた。……なっていたというより、もう既に考えられないけど。
とりあえず早く返信送らないと。あの人、さっさと返事送らないと鬼の形相みたく怒り出すもんな……。そう思いながら僕は文章を綴っていく。
彼女……陽菜は清楚系美少女で、誰もが憧れるであろう女子だ。クラスでも随一人気を誇り、僕のようなあまり注目の的にされない人でも憧れるような人だった。が、そんな彼女は僕に突然告白をしてきたのだった。なぜなのかは分からないが──一度そのことを訊こうと思ったものの、話題を強引に変えさせられて訊くことが出来なかった──、まあ、クラスの中で(別の意味で)注目されている僕にとって絶好の好機だったから、こうして陽菜と付き合うことにしたのだった。
──が、そんな彼女は実を言えばメンヘラに近い立ち位置だった。
あるトークをしている時に返事を直ぐによこさなければあの人は激昂したような──というよりそれに近い文章を連打して送り続け、終いにはスタンプ連打で僕のしていることを邪魔してくるような存在だった。少なくとも、僕が思う彼女の立ち位置としては。関係性としては。
僕「あれは……そうそう、最近流行ってるVLOG動画を出してね」
陽菜「は? あれがVLOG動画? 笑える」
──思い切り僕のメンタルを削りに来てるんですけど。彼女。
僕「じゃ……じゃあ、どうすれば良いかな」
陽菜「さっきコメントしたと思うけど、まず構成をしっかりと考えろ。それから」
──ふむふむ。構成ね……って、え?
陽菜があのアンチコメントの主?
え?
信じたくないけど、え?
僕は取り急ぎ、先程のコメント管理画面に移す。先程のコメントを画面に映し出す。
@user-takehama0011
テンポ良く進まなすぎ。構成しっかりと考えろ。
──え、これ陽菜の?
と、とりあえずこれスクショしよ。そして、これを陽菜に見せよ。
そう思い、僕は思ったとおりのことを行動に移して陽菜に先程のアンチコメントを見せた。流石に「返信を早くよこせ」と言う程返信が早く送られてきた。
陽菜「そうだけど? 何か?」
──怒ってる?
僕「怒ってる?」
陽菜「怒ってる? 私が?」
──あかん、これマジアカン。
陽菜「別に怒ってないわよ。あなたのチャンネルの質を上げようと思っているだけよ」
僕「……はい」
陽菜「じゃ、頑張ってね」
※ ※ ※
翌日の学校。僕は普段通りに教室に入り、クラスメートたちが交わしてくる挨拶に何となく笑顔で返す。
──作り笑顔だけど。
自分の座席に座った後、僕の目の前にある少女──清楚系で名高い黒髪を纏った色白な肌を持ち、整った顔立ちに子犬のようなキュルっとした目つき。そしてその上から被さる黒縁の眼鏡。その姿は陽菜の姿そのものであり、唐突に僕の机を叩いてきた。バンという音が教室中を響かせた。
「ねぇ!」
「ひぃ、いきなり怒鳴らないで下さいよう」
萎縮しながら陽菜の顔を見る。相変わらず顔が整っていて可愛かった。
「あのアドバイス、どう!?」
「あ、アドバイスぅ……?」
「恍けんな! 昨日の!」
「あ、ああ……昨日の……」
思い出したような口調になりながら、僕は言葉を選びながら次の言葉を発す。
「あのアドバイスのことなら、言われたとおりに動画作り直したよ。ほら」
そう言い、僕は彼女に動画を見せた。陽菜は僕のスマホをひったくり、まじまじと画面を見つめた。その姿もまた、可愛らしい。
時間が過ぎる。
「……良いんじゃない?」
「え?」
「だから! 良いんじゃないって言ってんの!」
そう言い、陽菜はまるでツンデレのような口調になりながら──実際はそうだけど──僕のスマホを机に放り投げた。
「良かった」
「ふん。じゃ、また放課後ね」
と言って、僕の視界から陽菜がスタスタと歩き去って行った。
自分のYouTubeチャンネルにアンチコメントが来たけど僕の彼女じゃないよね。 青冬夏 @lgm_manalar_writer
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