【短編小説】単純なアイツ

百方美人

第1話

どうやら俺は恋をしてしまったらしい。

そう自覚したのは大学3年の冬、2年間働き続けているカフェバイトでの事。


相手は、最近異動してきたバイト先の社員 須藤 那奈さん。


綺麗なロングの髪に、スタイルの良さが制服の上からでも分かる。口元のホクロはエロすぎると思うね。胸でかいし、男なら誰でも2度見するだろってレベル。いや、男なんだからそういう所に目が行くのは仕方ないじゃん?

それに優しくてさ、俺が注文間違えてサラリーマンのお客さんが怒鳴り散らした日があったんだよ。

「わざと間違えてるのか、俺をバカにしているのか!!」ってさ。

かれこれ10分くらい怒鳴られ続けて周りのお客さんにも迷惑になりだしてさ、そしたら裏から須藤さんが出てきて「大丈夫?気付かなくてごめんね、代わるから裏に行って」って。

その時社員3人くらい居たんだけどさ、誰も見て見ぬふりであ〜終わった俺の人生って思ってたけど、そこに現れたのが須藤さん。まじで天使かと思ったね。

は?言い過ぎだって?誇張してる訳じゃねぇって、ほんとにそう見えたんだよ。


結局、お客さんには割引券とかで対応してどうにかしてた。

その後須藤さんにお礼言いに行ったら、「アルバイトをカバーするのが社員の仕事でしょ?全然気にしなくていいからね、あとこれ。良かったら食べて」って言って、クッキーまでくれたんだよ。

普通そこまでしてくれる?と思ったんだよね、もしかした須藤さんも俺の事ちょっとは気になってるんじゃないかと思って。


しかもラストまで入った日、須藤さんと2人きりで帰ったんだよ。普段仕事場でしか会話しないから、須藤さんのプライベートな話いっぱい聞いたよ。

「休日何してますか?」とか「趣味は何ですか?」とか。

猫好きでインドア派、カフェモカをよく飲んでて意外と甘い物は苦手らしい。休日は家事ばっかしてるらしくて、家庭的な所がまた良いんだよ。

特にELLAGARDENっていう好きなバンド被ってたのはびっくりでさ、今度CD貸しますよ!次のライブ一緒にどうですか?って話とかして。ちょっと運命感じたよ。

ん?結局ライブに行ったかって??行ったよ、ライブデートってやつ。バンドT着てる須藤さんが可愛すぎて、ELLAGARDENそっちのけで須藤さん目に焼き付けてきたわ。まじで眼福、眼福。

てか、デートしてくれるって事は脈ありじゃね??良い感じだし、今度告ってみようかな。

え?大丈夫、大丈夫。でも、これでダメだったらまた慰めてくれよな。


後日、彼がバイト先に来ることはなかった。なんでも須藤さんに玉砕したらしい。須藤さんは既婚者で6歳年上の旦那さんがいるんだって。

バカだよね〜あいつ、社員がバイトを可愛がるのは普通な事だし、ライブデートだって思ってたのはあいつだけ。旦那さんはそういうの興味無いから、ただ単独で行くのが億劫だったって須藤さん本人から聞いた。

まぁ、私はいつも須藤さんが仕事前に結婚指輪を外してる事を知ってたけど、わざと伝えなかった。


今頃あいつは部屋で1人メソメソしている頃だろう。「仕方ない、甘いもんでも持って行ってあげますか〜」同じバイト先で働くようになって、つくづく惚れっぽくて恋愛体質なあいつの玉砕話には何回も付き合ってきたし、今更どうって事は無い。

ただ、いい加減変な女ばっかり追うのは諦めて私にしたらいいのにって思うんだ。

「単純なんだから、アイツは。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【短編小説】単純なアイツ 百方美人 @Y_korarun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ