親たるもの(今回は擬人化はありません)

 妻が妊娠していた時、休日に二人でとある城址に行きました。

 城址といっても、ほとんど登り降りを感じないいわゆる平城ひらじろです。


 城地を二人で散策して、ベンチで一休みしていると、猫が寄ってきた。


『あ、猫だ……おいで』


 そのはベンチに飛び乗り、次いで私の膝へ。


『ずるい、あなたばっかり!』

「俺は、小動物にはモテるぞ。ミケ、もうちょっと警戒心を持たないと生きていけないぞ」

『ミケ? キジトラじゃん』

「子供のころ家で飼ってた三毛猫の名前がミケだったんだ」


 ミケは、ジーンズを嗅いだり、指を舐めたりしてたけど、眠ってしまった。


『よくこんなデコボコした膝の上で眠れるね』


「まだ、ちっちゃいな」

『うん乳離れしてそう経ってないんじゃない?』


「暖かくて、気持ちいいよ」


 暖かさ以外の何かを感じる。

 …

 ……

 そうか、子供を持つって、こういう自分を頼ってくれる存在のもつ体温を気持ちいいと感じること、頼られて快いと感じることなんだ。


 もちろん、それまでも親になることは自分の父母や義父母に聞いたりしていましたが、それは知識を得ただけです。


 ミケが私の膝の上で眠って、そこからダイレクトに親たるものとしての心を学んだように感じました。


「俺、親になるってことがわかったような気がする」

『今さら?』

「ほら、ミケが膝の上で寝てるだろう。それでな」

『一緒にしないで! でもまあ、よろしくね、お父さん』

「うん……ところで、これどうしよう」

『?』

「トイレに行きたいんだけど、今立ち上がったら起こしちゃうよな」

『危機的状況?』

「そこまでではないよ」

『じゃあ、もうちょっと寝かしてやったら』

「そうだな」




 その後しばらくして、娘が生まれた日の夜、義父と酒盛り――決しててんで勝手に大の字になって寝たということはない――したのはまた別のお話し。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私はミケ 獅子2の16乗 @leo65536

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画