「ギロチン」
鼻につくカビの匂いで目が覚めた
鉄格子と壁だけの牢の中
頭上にある窓から射し込んでくる光が
地面を照らしている
そこにそっと触れた
冷え切った手に、土の温もりが伝わってくる
足音とともに男が二人やってきた
顔中、髭で覆われた男がなにか言っている
どこの国の言語なのか
なにを言っているのか全くわからない
両手に木でできた枷をはめられた
もう一人の背の高い男が持っていたコップ
そこに入った液体を無理矢理飲まされた
苦味が口の中に広がる
すぐに意識が朦朧としだす
一人では立っていられないほどに
二人の男に両側から抱えられる
暗い通路を歩いていき、階段を上がっていく
太陽の光が差し込んでくる
救いの光に引き寄せられているような気がした
上から騒がしい声が聴こえてくる
外に出た
日差しに目が眩む
周囲は高い壁に囲まれた開けた場所
民衆がひしめきあっていた
広場の中央にある台の上に
おぞましいものが見えた
民衆の奥の方から騒めきが起こった
若い女が泣き叫び、取り乱し
気が狂わんばかりに
こちらに向かってこようとしている
それを何人かの男たちが
必死に押さえつけていた
この男の恋人だろうか
それとも家族か……かわいそうに
身体が痺れている
自分の意思ではどうすることもできない
枷がはめられた手をそっと見下ろした
まだ若いこの男は
いったいどのような罪を犯したのか
にやついた若者たち
眉を顰め囁きあう婦人たち
泣き叫ぶ女
それを押さえつける男たち
三段しかない階段を登る
ステージの上にあがり
民衆の前に晒される
髭の男が懐から一枚の紙をとりだした
それを掲げ高々と読み上げ始めた
もう一人の男がロープを引いた
鈍く光る刃が
ゆっくりと持ち上げられる
二人に押さえつけられ膝をつく
先程まで騒ついていた民衆が
固唾を飲んで見詰めている
女の泣き叫ぶ声だけが響く
目の前にあった木の枠に
首を押さえつけられ
その上に
木の枠がしっかりと嵌められた
太陽はちょうど真上を通りすぎたあたり
生暖かい風が吹き抜けていく
青空に鳶がゆっくりと輪を描いている
しかし……おれはよく死ぬな…
口元が歪んだ
上手く笑えなかった
なんの前触れもなく刃が落とされた
その音のすぐ後に
糞みたいな世界が
クルクルと転がっていった
【詩集】夢(全13話) 久光 葉 @ys198104
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