終焉のためのハッピーエンド
藤泉都理
終焉のためのハッピーエンド
「漸く、終わったな」
「ああ。終わった」
世に放たれてしまった悪魔をすべて、悪魔の書に戻す事ができた。
これでもう。
「あなたとも、お別れだ」
エクソシストは両の手で持つ悪魔の書に話しかけた。
魂を持つ、悪魔の書。
その魂を以てして悪魔を封じ込めていたが、魂が擦り減ってしまったのだろう。
悪魔の書のほんの僅かな隙を狙って、悪魔の書に封じ込められていた悪魔は、須らく世に逃げ出してしまったのだ。
エクソシストは悪魔の書と協力して悪魔を悪魔の書に戻し、そして、すべての悪魔を戻す事ができたのならば。
悪魔の書を、消滅させなければならなかった。
十年。
十年も一緒に、旅をしてきた。
苦楽を共にしてきたのだ。
情は生まれた。
死なせたくない。
葛藤が生まれた。
けれど。
「今迄ありがとう。さようなら」
「ああ。ありがとう。さようなら。達者でな」
エクソシストは微笑んだ。
きっと、悪魔の書もまた、微笑んでいる事だろう。
そう思いながら、悪魔の書を空へと高く放り投げるや、ハルバードの斧の部分で真っ二つに引き裂き、そして、瞬く間に悪魔の書を消滅させたのであった。
「本当にいいのか?」
「ああ。やり遂げた褒美に一思いで頼む」
悪魔の書とエクソシストに同行していた監察者は、エクソシストにもう一度問いかけるも、同じ答えが返って来たので、わかったと頷いた。
悪魔でありながら、悪魔を刈っていたこのエクソシストは、悪魔の書に逃げ出した悪魔を戻す事ができたのならば、人間社会で生きる事を許可されていたのだが、エクソシストはそれを拒んだのだ。
まあ、脅威となる存在だ。消えてくれた方が有り難いが。
監察者はそう思いながら、エクソシストの二つある心臓を銃で撃ち抜いたのであった。
人間社会で長生きしろよ。
悪魔の書にそう言われるたびに、エクソシストは心中で謝罪していた。
その言葉に応えられない。
悪魔がいない世界を望んでいるのだ。
私はこの世界に必要ないし。
(あなたと共に、地獄でやりたい放題やるのも、悪くはない)
「さあ、行くぞ」
「ああ」
(2024.2.25)
終焉のためのハッピーエンド 藤泉都理 @fujitori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます