第26話
俺たちが向かったのは大規模な闘技場だった。普段は貴族直属の護衛部隊の教育のために使っているらしい。完全防音で外に情報が漏れないらしい。それが良いことなのか、悪いことなのかは不確かではないが俺にとっては加護を知られずに全力で使うことができる。
ミラとお父様は観戦席から見守る。俺は平場の空間に俺に殺意を向けるクリストファーと対面している。静寂の中に視線が交わる。剣の交わりは気の領域だ。どちらが先に仕掛けるのか。どちらが足を動かすか、それを感じ取ることに全神経をぶつける。人との対戦は疲れる。
「アリアン君だったかな。君は相当のやり手だね」
「お前もな」
「どうして君ほどの剣士が名前を聞かないんだ?」
「いろいろあってな」
「そうか。じゃあ、そろそろ倒れてもらうよ」
その言葉と同時に地面を蹴り上げた。俺の想像より、数段早かった。自分の実力を過信していた。加護なしでどうにかなるだろうという余裕が一瞬でなくなった。彼の加護を知らされていない今、予想するしかないのだが。
アリアンがクリストファーの姿を目で捉えた、その瞬間に剣の鈍い音が闘技場に広がった。そのあとにミラの甲高い悲鳴が聞こえた。
「寸前で受け流したか」
「危ないところだったよ。危うく、首が飛ぶところだった」
ミラの悲鳴の理由は左太もも付近からの出血だろう。受けきれなかった理由は彼の加護だろう。剣が当たった時に押し込まれたんだ。単純な筋力強化か、それとも局所的な身体強化。
「俺の加護は握力の強化。もうばれているだろうから言うがな。次の一手でお前は受けきれずに死ぬだろう?その証拠にお前はもう剣を握れていない」
変な体制で剣を受けたので手首をひねった。握ると激痛が伴う。ミラがいれば回復魔法で何とかしてくれていただろう。俺はパーティーメンバーに頼りすぎていたのかもしれない。
◆
「お父様。もうやめてください。私は結婚に応じます。ですから、アリアンを解放してやってください」
ミラはお父様の手を取って懇願する。しかし彼は闘技場のほうを向いてミラのほうを見ようとしない。彼はアリアンが死ぬところを見ようとしているわけではなかった。
「ミラ、君は彼の加護を見たことがあるかい?」
「か、加護ですか?そういえばないかもしれません」
「そうだろうな。彼はまだあきらめてない」
◆
痛みを伴う手で剣を握りなおして、痛みを紛らわすように笑った。
「ありがとう。じゃあ、俺も反撃するとするか」
「強がるな」
「そうだ。強がりだよ。お前となんて本当は戦いたくなんてない。でも彼女がかかっているからな。女の子の前では強がって大きく見せんのが男だろ?」
「言えてるな」
そういうと彼らは笑った。ミラは彼らのこの後を黙ってみている。
「制限解除」
その声が闘技場に響いた。
女子だけのパーティに女装して入っている俺、バレたら即追放のはずが皆が誘惑してきている件 大学生 @hirototo
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