第25話
目の前の金髪の青年は俺の方を見てニヤリと笑う。彼の手を見てみると剣だこができていた。
これは素振りでできたのだろう。その不敵な笑みが努力に裏打ちされているのだろう。俺は漠然とそう思った。
「お父様!?彼は剣士の家系の...」
「そうだ。何度も聖騎士を排出している貴族の家系のクリストファー・ジサーク君だ。彼がミラの写真を見た時から惚れ込んでくれてな」
そういってお父様は彼の方を見て笑った。もう彼は信用を勝ち取っているのか。無理もないか。由緒正しい家系、それに努力家とみた。結婚相手としては最高だろう。でも。
「どうかミラ。私と一緒に生涯を添い遂げましょう」
「嫌です。絶対に嫌」
彼女が嫌がるために前に進まないということだな。俺的には彼と結ばれて、貴族の家に入ると言うなら生活は保証され、彼女の家系は発展することになるだろう。
「私は冒険者として....あ、アリアンさんと添い遂げたいんです!」
おい、本音が出ているじゃないか。第一に彼女は俺の事を好きじゃないだろう。さっきまで女だと思っていた相手を恋仲だと思うなんてことは出来っこない。
「そうか、ミラ。じゃあ、今ここで愚男を本当に愛してるということを証明してくれ」
「証明....」
俺はお父様が言った言葉を復唱するように呟いた。彼は俺たちのことを値踏みするように眺めてから、真剣な口調で言った。
「ここでキスしてみろ」
「「へぇ?」」
俺たちの反応に嬉しそうにしたのはお父様。もしかして俺たちが付き合ってなどいないということがバレているのかもしれない。
「お、お父様?こんな人前でできる訳ありません」
「ミラの言う通りです。彼女のことは大切にしたい。だからそんなことは出来ないです」
俺たちは口々に彼の提案を退けるような言葉を発した。そんな言葉など予想通りとでも言うように、高笑いをしたお父様は続けてこういった。
「何を言っている?ミラ。お前は町中でも噂になるほどいちゃついていると申しておったではないか?あれは嘘だったとでもいうのか?」
「え、ちょ、それは....」
「アリアンは私に首ったけでメロメロだと」
「それはその....」
彼女は顔を真っ赤にしてうずくまってしまった。本当にそんなことを言っていたのだろうか。否定をせずにただ下を向いた。
そんな嘘ついてどうするつもりだっただよ。俺がただ呆れの感情に浸っていると、急に俺の手を握って、俺の方に向き直した。
「じゃあ、してあげます。アリアン....こっち向いて」
「え、まじで?」
「おおまじです」
そう言って、彼女は俺の頬に手を伸ばす。彼女の綺麗な顔が近づく。俺はキスなんてしたことが無い童貞を貫いてきた。
彼女が俺の初キス相手に....。俺はこの状況にただ身を任した。本当に好きな相手とするキスだと決めたはずだったのだが。
「少し待ってください!」
部屋中に透き通った声が響く。その声に驚いてミラは俺から顔を離した。その声の主はクリストファーだった。
「お父様。彼と戦った後に私がお父様の前でキスをするというのではダメでしょうか?」
「そうだな。それがいい。愚男に娘の唇をあげてたまるか」
お父様のお許しが出たクリストファーは腰に引っさげていた剣を抜いた。
「アリアンくんだったかな?この俺と一戦交えよう」
「......あぁ」
「もちろん、俺が勝ったら君からミラを貰うよ。弱い男に女は守れないからね」
「そうだな。俺が勝ったら、二度とミラに手を出さないと誓え」
俺は腰から剣を抜く。クリストファーの使っている剣よりも数段階も価値の低い剣だろう。
「アリアン....彼は強いよ。さすがのアリアンでも」
「俺は勝つよ。ミラは自由でいて欲しいからね」
「お願い。生きて帰ってきてね」
そういうと彼女は俺の手の甲にキスをした。少し頬を赤くして、彼女は不安そうに笑った。その顔に笑いかけるとそのまま闘技場へと向かった。
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