第24話
彼女と手を組むまでは楽しかった。一言で言うと天国だったんだ。しかし状況は日々変わっていくのだ。ダンジョンと一緒である。
いや、さすがにダンジョンのモンスターと一緒にしてはミラのお父様に申し訳ない。だってモンスターと比にならない程の殺気、威圧感を放っている。
俺はお父様の部屋の窓から彼のことを見てから完全に足がすくんでしまっていた。
「何してるんですか、アリアン?早く行きましょう。お父様が待ってます」
「あー、そうだね。念の為に聞くんだけど、あれがお父様だよね?」
「そうですが?」
彼女はキョトンと俺の方を見てくる。どうしたらこの可愛い子の親がアレになるんだ。まあ、商業の神と称されるだけあるのか。
もしかすると、怖い顔だけど本当は優しい可哀想な怪物タイプなのかもしれない。そうだ。それに違いない。
俺は自分に言い聞かせて、お父様の部屋をノックした。
「入りなさい」
低く響くような声が俺の鼓膜を揺らした。俺が緊張をほぐすために深呼吸をしてから部屋に入る。その時に感じたミラからの震えは間違いなく、父親に対するものなのだろう。
冷静を偽っていたのだろうか、俺が一度ミラの顔を覗くと少しのこわばりを感じた。
「行きましょう。アリアン」
それだけ言って彼女は扉を開けた。部屋にはお父様一人だけだった。メイドたちも気を使って席を外しているのだろう。
「久しぶりです。お父様」
ミラが挨拶をするが、お父様は挨拶を返さない。威圧感のある顔を崩さずに、俺たちに向かいに座るように指示する。
「お父様、初めまして。ミラさんとお付き合いさせてもらっているアリアンです」
「そんなことは聞いていない!ミラ、早く家に戻ってくるんだ」
俺の挨拶の途中で彼は怒鳴った。彼の言い方からして前から家に戻ってくるように提案していたようだ。
「それはできません」
「で、なんだ?冒険者を始めたら、何処の馬の骨かもわからんやつを連れてきて」
「彼と付き合ってることと冒険者を続けることはちがいます」
ミラははっきりと怖いお父様の顔を見て言い張った。しかし、お父様の心には響かなかったようだった。
「くだらん。ミラ、お前の結婚相手は決まっている。今日お越しになって下さっている」
「私は断りましたよ。私はアリアンを愛しています」
そう言って、俺の手をとった。
お見合いを済ませてしまい、相手方の妻となったら冒険者なんて危ない仕事は辞めさせられてしまうだろう。だから俺と付き合っているふりを。
彼女の握っている力が強い。怖がっているのだ。お父様のことを。俺が彼女にできることはなんだろうか、そう思って彼女の手を同じくらいの力で握り返してやった。
「愚男。お前はどこ出身だ」
「アルトゥーケです」
俺は偽りの街出身にしている。かつて絶滅させられた村出身など、哀れんだ目で見られるし、それにアイツの目が届くかもしれない。
「平民の出か。ミラ。お父さんを見ていただろう。私たちは平民ということで差別されてきた。やっと貴族と結婚出来るところまで来たんだ。俺はお前に苦労して欲しくない」
彼の言うことも一理ある。やはりどこに行ったとしても身分ということは関わってくる。商業なんて、それが一番影響するところだろう。
「私は平民でいいです。私はアリアンと添い遂げます」
「くだらん誓いだ。もうお見合い相手に来てもらっている。入ってくれていいぞ。クリストファー君。」
そういうと、金髪の好青年が扉から入ってきた。イケメンの高身長。文句の付けようのないような男だ。
「愚男。お前にはこの男と勝負してもらう。負けたらミラはこの男と結婚してもらう。弱い男にミラが守れるとは思えん」
そういうとお父様は金髪の好青年を横に座らせた。
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