はざま
呆然と、少女の消えた場所を眺めていた。
こんなことがあっていいのだろうか。けれど僕ら店主は客に対して、夢を見せること、対価に未来を受け取り夢のサンプルにすること、それしかできない。
店は夢を見たい人の前にひとりでにに現れる。
それ以外の人にはただの駄菓子屋に見える。
だから気になる客がいたとて業務に関係のない何かを問うことは許されていないし、客の住んでいる地域すらわかりはしないのだ。
少女に、カウンターの飴玉の一つでもやって、笑った顔が見たかった。
泣き笑いじゃなくて、年相応の笑みを。
朝起きて、トーストを焼いて、ニュースをつけるのを一瞬ためらい、えいと思い切ってつけると、画面は真っ赤だった。火事だ、火事。少女に見た未来と同じ。
『すごい炎です、夢見県未来市の住宅街で、大規模な火災が発生しています。近隣の方は注意してください。まだ原因や死傷者は分かっていませんが、情報が入り次第お伝えします。』
女性のレポーターが声を張り上げる背後には、見覚えのある家。そう、少女から未来を買ったときに見た景色とおんなじ、よくあるボロアパート。
なんだ、結構近くに住んでるじゃないか。
・・・もしかしたら僕に助けられたんだろうか。
いや、もしかしたらを考えたって不毛だ。少女の未来は確定していいたのだから。
ニュースを消し、学ランに着替えて自転車にまたがった。
誰が死のうと、誰が不幸になろうと、時間は進む。
客に見えたのが明るい未来でも、暗い未来でもどっちみち僕には干渉できない。
空を見上げると、マンションの頭の上に黒煙が見えた。
僕はなんとなくその場で自転車を降り、道の端に寄って、黒煙の方向に手を合わせ黙祷した。
永遠の眠りについた彼女に、平凡で幸せな夢が降ってくるように。
自転車をこぐ視界が涙でぐしゃぐしゃで、とてもじゃないが危なくて運転できず押して走ったら、案の定遅刻した。
今日の一限目は修学旅行のプラン決めだ。
楽しもう、このひとときを存分に。
ただ夢を見て 幽彁 @37371010
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